85 千年前の真実2
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「アベルがこの地で虐殺を行ったことは石碑に書いてあったと思います。しかし、実際に虐殺を行ったのは彼ではなく、彼に取り憑いた魔人なのです。」
シルビアの言葉に皆、言葉を失った。勇者に魔人が取り憑いていた?そんなことができるのだろうか?
「アベルは魔王から受けた傷で従来の100分の1程度の魔力しか出せない状態でした。そのため、そこを付け込まれたのだと思います。実際にどのような経緯だったのかは分かりませんが、間違いなく魔王討伐後すぐに取り憑かれたようです。そして徐々に意識を乗ったられたようです。
不覚にも私達がそのことに気づいたのは魔人がこの地で虐殺を行った後でした。完全に取り込まれると彼は間違いなく第二の魔王となってしまうのは分っていました。私達は全力で彼を支配した魔人と戦いました。彼の肉体をほぼ奪い取っていた魔人は予想以上の強さでした。石碑にも書いてあったと思いますが、4英雄の内2人、私と神官のルーシャンはこの戦いで命を落としました。」
「えっ。それではあなたは?」
シルビアは死んだというが、目の前には本人が立っている。どういうことだ?。
「千波矢さんでしたよね。この島は何と呼ばれていますか?」
「アンデッドの島ですが・・・。もしかして、」
俺はある結論にたどり着いた。あまり信じたくはないが真実かもしれない。とても残酷なことだが。シルビアはそんな俺の様子に気づいたのだろう。
「ええ、私は死んでアンデッドになったんです。私達が倒した魔人はアンデッドを配下にしていました。そのため、この地で死んだ生物はアンデッドとして蘇るという呪いをこの地に掛けたんです。
偶然ですが、私はアンデッド化した後も自我を保つことができました。そのため、こうしてこの島を守ってきたのです。」
シルビアはそういうと俺の方を向き直ると俺を見つめる。その顔は真剣な表情だった。
「千波矢さん。あなたにお聞きしたいのですが、勇者について調べていると聞きましたが、あなたは勇者の力を求めていますか?」
突然の質問に俺は返答に窮した。今まで考えたこともなかった。
勇者の力か。
・・・・・・いらないな。それほど時間もかからずに結論はついた。
「いらないです。元々、リンガル様に頼まれたのは『勇者について調べてくれ』だけです。『勇者になれ』とも言われていません。俺に勇者の称号は荷が重すぎます。何しろこの世界に来てそんなに時間も経ってないですし、この世界のために命を掛けてくれと言われても困ります」
俺の返答を聞いて、シルビアさんは安堵したようだった。逆にアンは俺が勇者になると思っていたらしく非常に狼狽していた。
「良かったです。あなたが欲しいと言ったら、私はあなたと戦わないといけないところでした。恐らく、あなたに勇者になる資質はありません。」
シルビアは今度はギルの方を向くとニッコリ微笑む。
「この中で勇者になる資質があるのはギルさん、あなたです。」