70 受け継がれし秘密
「我が家には、代々受け継がれてきた秘密がございます。初代様についての話です。おそらく、・・・それが勇者様のことだと思われます。」
ゲオルグは苦々しい表情だった。余程、他人には聞かれたくない内容なんだろう。
「おじいさま。私は知らないのですが。」
「この話は代々当主以外には伝えてはいないからな。ゲイルには伝えたが、お前たち兄弟には伝えていない。そろそろ、シュバルツにも伝えねばと思っていたところだがな。」
「ゲイル?」
「私たちの兄妹の父で、先代の当主です。昨年、流行病で亡くなったのです。そのため、兄が急遽、当主となったのです。その時にいろいろとありまして、・・・。」
ソフィアは申し訳なさそうに説明する。
「皆様方、難しい話は食事の後にいたしましょう。せっかくの夕食が冷えてしまいます。」
ゲオルグはそういうと、夕食会が始まった。
夕食後、俺たちは地下の宝物庫に案内された。
「いいんですか。俺たちがここに入って。」
俺が尋ねるとゲオルグは笑って答えた。
「大丈夫です。この中に見られて困るものなどありません。例の資料以外は・・・。」
そんなものなのか、と思ったが、宝物庫の中に入るとその理由が分かった。何もないのだ。宝物庫の中身は空だった。これは泥棒?と思ったが、ゲオルグたちは平然としている。どうやら泥棒ではないのだろう。俺たちが唖然としているとソフィアが教えてくれた。
「昨年の流行病で父だけでなく、多くの領民が亡くなりました。そのため、この領内は飢饉やモンスターの被害などたくさんの問題が起こりました。それを対策した結果がこれです。しかし、飢饉が起こったにも関わらず、領民の餓死者もゼロに抑えることができました。モンスターの被害も最小で済んだと聞いています。」
ソフィアは胸を張っている。
「まあ、そのことは置いておいて、問題の資料はこちらにあります。」
ゲオルグはそういうと宝物庫の隅にある扉からさらに奥に入っていった。扉には当主以外の立ち入り禁止、と書かれていた。
扉の鍵を開けて中に入ると、大きな石碑が立っていた。
「おそらく、この石碑に書かれていることこそ、フミヤ様と千波矢様がお求めの情報でしょう。」
ゲオルグが指指す先には大きな石碑があった。それを見たソフィアがゲオルグに尋ねる。
「おじいさま。代々当主のみに伝えられたこの石碑。私が見てもよろしいのでしょうか。」
「構わん。よく読んで、心に刻みなさい。」
ゲオルグは大きく息をつくとそういった。その目は何か決意をしたものの目だった。