61 勇者の真実
「あの腰抜けはな。レイムスの町がモンスターに襲われた時に一人この里に逃げてきた奴なんだ。」
最長老はとんでもないことをカミングアウトしてきた。
「その話、本当ですか?」
「ああ。お前ら人族に何度も話しているんだが誰も信じやしない。」
それはそうだろう。勇者が逃げてきたと言われてもな・・・。
「俺たちの伝承ではモンスターを倒した、となってますんで。」
「らしいな。だが実際は、あいつは大したスキルも待ってなくて、モンスターを倒す実力はなかったんだがな。」
「そうなんですか。なら、どうして町を出て、魔王討伐の旅に出たんですか?」
「魔王討伐の旅?ちがう、ちがう。あいつは敵前逃亡で町を追放されたんだ。」
「町を追放ですか。」
「そうだ。あの時代は魔王との戦争中でな。レイムスは徴兵制を導入していたんだ。あいつはモンスターが襲ってきたとき斥候だったらしい。そして、モンスターを見つけて町に知らせず、この里に逃げ込んできたんだ。そのせいで町は対応に遅れて、大きな被害にあったんだ。」
「・・・それは死罪になってもおかしくなかったのでは?」
話を聞くと思った以上に屑のような人物に聞こえる。
「ああ、『エルフに助けを求めた』と本人が主張してな。実際、俺たちも助けに行ったし、行かなければレイムスは全滅したかもしれない。そういうこともあって、追放になったんだ。」
町で聞いた話とは全く違うが、辻褄は合う。当時から生きている本人なので嘘を言ってはいないだろう。やっぱり勇者の力は後天的に手に入れたものみたいだ。
「では、勇者の力をいつ、どこで手に入れたかご存知ですか?」
「それについては俺もわからない。気がついたら光の力を手に入れて、魔王を倒しやがった。」
「光の力?」
「ああ、それが勇者の力と人族が呼んでいるものだ。」
結局、肝心なところは分からなかったが、勇者の力は後天的なものらしいと分かった。
これからどうしよう・・・。
そうだ。
「あの、勇者は魔王討伐後、どうなったんですか?」
実は人族の伝承にも魔王討伐後の勇者の動向は知らされていない。ただ一言、『いずこかへ去った』とされている。
「ああ、あいつはこの地方の領主になったんだ。だが、悪政を敷いて10年くらいで財政を傾けてな。強制的に息子に領主の座を譲って隠居させられていたな。」
また斜め上の答えが返ってきた。
「その後はどうなったんですか。」
「息子と家臣が頑張って、財政を立て直したさ。息子は父親と違って優秀だったみたいだな。」
「あの、勇者の方は?」
「あいつは確か『どっかの島の別荘で隠居生活を送った』って聞いたな。まあ、島流しだな。」
次に調べる場所が決まった。その島だな。




