6 アン、神託を受ける
ヒロイン候補の登場です。
評価ありがとうございます。
「大神官様。私、神託を受けました。」
赤毛の少女は勢いよく扉を開けて部屋に入っていく。
部屋の中には初老の男と中年の男が話をしていた。
「アンさん。部屋に入る時はノックをするように言ったはずですが。」
「大神官様、すみません。慌てていて忘れてました。」
アンは初老の男に謝罪する。
アンは10歳の時に【神託】のスキルを授かり、15になった今年、神官見習いとなったばかりだった。
そうそうに神託を受けたことで興奮していたのだった。
「で、どのような神託を受けたのですか?」
「はい、『もうじき新たな転生者を送るので後はよろしく』とのことです。」
アンは神の言葉を正確に伝えた。もちろん神とはラインハットであった。
「おい、小娘。本当に神がそのようなお言葉を言われたのか?
聞き間違いではないのか?」
中年の男が不快か顔をしながら詰め寄る。この男は神官長で大神官の次に偉い人物であった。
たしかに神が「よろしく」はないだろう。
ラインハットはいままでもこのような言葉使いで神託を行っていたが、神託を受けた神官が丁寧な言葉に変えて報告していた。そのことを入ったばかりのアンは知らなかった。
「間違いないです。」
アンは自信満々に答える。若い彼女は世渡りというものを知らなかった。
【神託】はランクSのスキルである。【神託】を授かったということは出世を約束されているようなものなのだ。当然、他者からは妬み、恨みの対象となる。
純粋に神を敬愛していて神官になったアンはそのことを知らなかった。いや、正確に言うと気づいていなかった。
優しい先輩がそれとなく注意していたのだが・・・。
突然、アンの体を神秘的な光が包み込んだ。
アンは瞬時に神託であると理解した。何しろ先ほど同じ状態になったからだ。
「あっ、ごめん。手違いで転移者をそこから東に100キロほどのところに転移しちゃったからよろしく。」
さすがのアンも呆れずにはいられなかったが、すぐに何か深い考えがあるのだろうと勝手に推測した。
実際は転移の呪文の最中にくしゃみをしただけなのだが・・・。
アンは大神官と神官長に新たな神託を一字一句正確に伝えた。
「ふざけるな。本当に神託なんだろうな。」
「ゼロス殿、落ち着いて。神託を疑ってはいかん。」
「しかし、大神官様。今までにこのような神託がくだされたことはありません。しかも、神が『手違いで』などとおっしゃるでしょうか。」
「私は確かにそう聞きました。」
「黙っていろ、小娘。」
神官長はアンを睨みつける。まだ成人したばかりのアンは神官長に威圧され、しゃべることすらできなくなった。
「大神官様。以前から申し上げておりましたが、私はこの娘は神官としての資質に欠けると思います。たしかに【神託】のスキルは持っているかもしれませんが、神の言葉を偽るなどあってはならぬことです。」
「ゼロス殿、彼女が言葉を偽った決めつけるのは・・・。」
「では神が『手違いで』などとおっしゃるとお思いですか。」
「いや、それは・・・」
さすがの大神官も庇いきることができなかった。
こうしてアンはわずか1ヶ月で教会を追放されたのだった。