56 その日ギルは
今日は一日自由行動の日だ。朝起きると、アンはすでに出かけていた。昨日から嬉しそうだったので、何かしたいことがあったのだろう。千波矢はどうやら調剤をするようだ。
自分はギルドで修行だ。ギルドの訓練場を利用する予定だ。愛剣を持ってギルドに向かう。ギルドはがらんとしていた。・・・そうか。オーク討伐にみんな行っているんだった。ギルドにいるのは若い低ランクの冒険者だけだ。彼らはもしもに備えて待機しているのだ。
「あら、ギルさんでしたっけ?どうされました?」
受付嬢の態度が悪い。千波矢がオーク討伐を拒んだからだろう。ランクEの自分は参加する義務はないはずなので完全な逆恨みなのだが・・・。
「ちょっと訓練をしたいので、訓練場を借りてもいいですか?」
「そんなに暴れたいならオーガ討伐に行けば良かったのに。」
「冒険者にとって慎重であることは重要なことですよ。」
「あなた、オークソルジャーを倒したんでしょう?それなら、オーク討伐ぐらい楽勝でしょう。」
受付嬢が声を荒げてくる。・・・どうやら、何を言っても無駄のようだ。説得は無駄の様だ。この受付嬢は自分の考えを曲げないタイプの人だ。無視したほうが楽だ。どうせ明日にはこの町を出発するので、少々関係が悪化しても問題ないだろう。
無視をして訓練場に行くと、何人かの冒険者が訓練をしていた。みんな若い。成人したばかりだろうか?横でひっそりと素振りを始める。素振りは剣術の基本だ。
「あの。ちょっといいですか。」
しばらく剣を振っていると一人の少年に声を掛けられた。少年はオドオドしている。
「なんだ。」
「あ、あの。オークソルジャーを倒したって本当ですか。」
少年は意を決して大きな声で聴いてくる。周りがざわつく。少年は、まるで鬼教官の前に立つ訓練生のように緊張して直立している。
「ああ、確かに倒したが・・・。」
少し圧倒されながら答えると少年は目を輝かせる。
「お願いです。自分に訓練をつけてください。強くなりたいんです。」
少年は大きな声で頼んできた。凄い気迫だ。少年の気迫に圧倒されていると、周りで訓練をしていた他の少年たちも周りに集まってきた。
「「「俺たちにもお願いします」」」
「一、二、一、二・・・・・・」
全員が一心に素振りをしている。結局、4人全員の指導をすることになった。彼らは必死に訓練についてきた。今までに正式な指導を受けたことがなく、ギルドの訓練は実戦だけだったそうだ。そのため、基礎が全然できていなかった。
一日しか指導できないため、基礎訓練の仕方と初級の技を見せただけだった。それでも、夕方には4人とも見違えるほど上達していた。
「いいか。この基礎訓練は毎日続けろ。どんなに上達してもだ。」
「「「「はい、師匠。わかりました。」」」」
いつのまにか師匠になっていた。




