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神の悪戯に翻弄される冒険者  作者: 佐神大地
第2章
55/330

55 その日アンは

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「行ってきます。」


 アンはそう言うと宿を出る。時刻は朝5時。千波矢さんたちはまだ寝ている時間である。私は起こさない様にこっそり出てきた。今日、私はしたいことがあった。私はまっすぐに目的地に向かう。

 私の前には古ぼけた教会がある。人手が足りていないのだろう。あちこちが傷んできている。


「おはようございます。」


 私は教会に入っていく。中では一人の老いた女性神官がすでにお祈りをしていた。私はその女性神官の隣に行くとお祈りを始める。そう、今日私は神官修業に来たのだ。現在、見習い神官ではないとはいえ、神託により転移者の千波矢さんといっしょに行動しているだけである。神職を全く諦めたわけではない。昨日、神官と話をして今日一日お世話になることになったのだった。


 たっぷり1時間お祈りをした後は、教会の掃除を始めた。掃除といえどこれだけの範囲を一人でするのはかなりの肉体労働である。この教会は古く痛んでいる箇所はあるが、汚れなどは見当たらなかった。毎日の掃除が行き届いている証拠である。私はこの老いた女性神官に尊敬の念を抱かずにはいられなかった。


 7時になり朝食の時間になる。今日、私はここで食事をいただくことになっている。朝の食事は黒パンとスープだけだった。クラリス教の教えでは「神官は質素な食事をしろ」とは教えていないが、地方の教会ほど質素な食事をしていることが多い。理由は簡単だ。お金がないからだ。

 食後にまたお祈りを開始する。私達は神様からの神託を得ることを目的に活動をしている。必然的に神に祈る時間が増えてくる。


 教会の横にある畑の作業も神官の重要な仕事である。ここで取れる野菜は自分たちの食料にもなるが、時々行われる炊き出しの材料としても重宝される。この教会にも隣に大きな畑が一つあった。これも一人で手入れをしているらしく、頭の下がる思いだった。


 お昼過ぎに怪我をした人が治療に訪れた。


回復魔法(ヒール)


 私は回復魔法を唱え、傷を治す。見習い時代にはしたことがなかったお仕事だ。「高齢になったため、魔法の使用はきつくなってきた」とのことだったので、かわりに行うこととした。

 いつも戦闘後に回復魔法(ヒール)は使っているが、教会で施術として使用するのは初めてだった。私はかなり緊張していたらしく、あとで女性神官に笑われてしまった。


 夕食前のお祈りを済ませると、私はお礼をいい宿に戻った。帰り際に心ばかりのお布施を渡した。久しぶりに教会で一日を過ごし、身も心も洗われる気がした。



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