48 特例措置
レントの街は通常運転に戻りつつあった。建物が壊されたわけではなく、ただ、病魔の霧が発生して住民が避難しただけだったからだ。ケロッグ神父たちは霧が残ってないかの確認に一日を掛け、安全を確認すると封鎖を解除した。最も完全に元に戻るにはもう少し時間がかかるだろう。何しろ住民の中には心の傷をを負ったものもいるからだ。ただ、それ以上に希望を手にしたものもいる。黒髪の聖女だ。これよりレントは「黒髪の聖女に救われた街」として栄えていくことになる。
俺たちは封鎖の解除を確認することなく旅立っていた。まあ、逃げだしたのだ。あれから1週間、今までと違って、俺も戦闘に参加するようになった。武器も棍棒と片手斧両方を使うようにした。何かあった時、自分の身を守れるのは自分しかいないとはっきり認識できたからだ。今日は久しぶりの町ということで宿屋でゆっくりしている。
「どうだ。斧の使い心地は?」
「そうだな。棍棒より使い易いかな。なにしろ、切ることができる。」
「いや、棍棒もいい武器だぞ。せっかくいいスキルを貰ったんだから、棍棒も使っていこうぜ。状況に合わせて使えるのはいいことだぞ。」
「がんばるよ。」
「ところで、さっきギルドに行って来たら、いい依頼があったんだ。受けてみないか?」
「いい依頼?」
「ああオークの討伐依頼だ。『オークはランクDのモンスターでこいつを倒せたら一人前』って言われるモンスターなんだ。」
「オークですか。いいモンスターですよね。倒しに行きましょう。」
アンも乗り気だ。
「二人とも倒したことがあるのか?」
「自分は騎士団の訓練に参加した時に倒した。」
「私はないです。」
えっ?ならなんで、アンも乗り気なんだ?俺とギルが不思議そうにアンを見つめる。アンもその視線に気づいたようだ。
「どうしたんですか、二人とも?」
「なあ、アン。どうしてオーク討伐に乗り気なんだ?」
「決まってるじゃないですか。オークのお肉は美味しいんですよ。」
「・・・・・・」
アンの言葉を聞いて、俺たちは呆れる以外になかった。
「アン、俺たち料理はしないよな。オークを狩っても全部売るぞ。」
「・・・そうですよね。」
次の日、ギルドについた時、俺は一つの疑問が浮かんだ。ランクGの俺はランクDのオーク討伐の依頼を受けれるのだろうか?
「えっと、ダメですね。オーク討伐はランクEの方からです。」
予想通り受付嬢からNOと言われた。
「パーティーの誰かがランクEなら可能ですよね」
ギルはそういうと冒険者カードを提示する。ランクEだ。
「ちょっとまて。ギル、お前いつランクEになったんだ?」
前回登録した時、確かにランクFだったはず。
「いや、最初の依頼達成の時に、ランクEに上がりましたよ。」
「私もです。」
アンもそう言って俺にカードを見せる。どういうことだ。俺はランクGのままだ。
「特例措置ですね。実力のある人がギルドに登録するとすぐにランクアップできるように便宜を図ることがあるんです。」
なんて不公平なシステムなんだろう、と思いつつ、俺たちはオーク討伐依頼を受けることになった。




