37 フィル王子のスキル
「ギルの処分については後で考えるとして、千波矢殿、旅に出ると言うのは本当か?」
俺はクリス王子に尋ねられる。
「はい、リンガル様の命により勇者について調べようと思います。」
「勇者について?」
「リンガル様に頼まれましたので。それにリンガル様が仰られた『勇者は希望なのだ』と言う言葉が気になりましたので。」
「勇者は希望なのだ、か。」
「はい。」
リンガル様はもう一つ重要なことを仰られていた。『希望はある』と。この二つの言葉を合わせて考えると、『勇者はある』ということになる。まだ仮説の段階なので大っぴらに言うことはできないが。
「リンガル様は他に何か仰られていたか?」
「そうですね。『魔王に対抗できるのは勇者だけではないが、』と」
「つまり、勇者が現れなくても魔王と戦えるということか。」
「たぶん、そうだと思います。」
「よし、勇者については千波矢殿に任せる。何かわかったら是非知らせてくれ。我々は戦力の補強と魔王に対抗する兵器の開発などを進める。」
「兄さん、相談したいことがあるんですが。」
フィル王子が真剣な面持ちでクリス王子に話しかける。
「ダメだ。」
「まだ何も言ってないんですが。」
「どうせ、千波矢殿といっしょに行きたい、というのだろ。」
「なぜわかったんですか。」
「お前の行動は分りやすいからだ。確かに、お前のスキルは役立つかもしれんが、お前はまだ未成年だ。旅に同行させるわけにはいかん。それに王族であるお前が一緒だと危険も増す。」
クリス王子のいうことは最もだった。フィル王子は従わざる得なかった。
「では兄さん。ギルを千波矢さんのお供に付けることを許可してください。」
「ギルを?・・・もしかしてお前のスキルか?」
「はい」
「ギルと千波矢殿の同意が得られたら許可する。」
「ということで、千波矢さん。ギルを連れて行ってくれませんか。」
「・・・どういうことなんだ。」
「本当は僕が一緒に行きたかったんですが、兄さんから許可が得られなかったので、代わりに連れて行ってください。必ず役に立つはずです。」
「いや、全く理由として理解できないんだが・・・。」
「そうか。千波矢さんは僕のスキルを知らないんですよね。僕のスキルに【直感】というスキルがあります。ランクAのスキルです。『何となく最善の選択肢が判る』というスキルです。そのスキルがいっているんです。ギルをお供につけろと。」
ギル、あの土下座のプロだよな。騎士としての実力は知らないが精神的に未熟な気がする。大丈夫なのだろうか。
「千波矢さん。彼の剣の腕は間違いないです。僕を信じてください。」
俺はアンの方を向くと「千波矢さんにお任せします。」と言ってきた。同行させるかどうかは俺次第か。
フィル王子は真剣だ。その眼差しから彼の言葉に嘘がないことは分る。そしてその態度から絶対の自信も感じる。俺はフィル王子を信じることにした。
「で、本人の意思はどうなんだ。」
俺はフィル王子に尋ねる。一番重要なのは本人の意思だ。本人が嫌がっているなら、同行させることはできない。