34 アンの決断
「アン、あなたはこれからどうするつもりですか。」
リリアさんがアンに尋ねてくる。
「どうって、どういうことです?」
「ゼロス神官長がいなくなった今、あなたは神官見習いとして教会に戻ることができます。」
「ホントですか。」
アンは嬉しそうだ。
「ただし、その時は転移者の護衛の役は他の者がすることになると思います。」
「どうしてですか。」
「見習いを警護に付けることはできません。それにあなたは【神託】のスキル持ちです。教会としては危険なことはさせれません。」
「そんな。」
「もし、あなたが転移者といっしょに行動をしたいのなら教会に戻らなければいいのです。教会所属でなければ、我々はあなたの行動を制限することはできません。」
アンは悩んでいるようだった。俺としてはアンとは別れたくなかった。俺は彼女に惹かれてきていた。
「あの、千波矢さん。これからどうするおつもりなんですか?」
アンは恐る恐る俺に聞いてきた。
「俺は、・・・旅に出るつもりだ。リンガル様に頼まれたこともあるし、世界中を回る予定だ。」
「旅に出るんですね。」
アンは迷っていた。神官になるのは自分の夢だった。10歳の時に【神託】のスキルを授かってからずっと夢見ていたことだ。一旦は途切れた神官への道がまた開こうとしている。本来なら迷うことはないはずだ。
ところが、迷っている自分に気づいた。転移者である千波矢さんと離れたくないのだ。出会ってたった数日だが、彼の存在は私の中でとても大きくなっている。【神託】により出会えた転移者だからだろうか?いや、違うおそらくは・・・。
「あの、千波矢さん。私、ほんの数日ですが、あなた一緒にいて、とても楽しかったんです。神官になるのは私の夢でしたが、できれば、あなたと一緒にいたいです。ずっとあなたについて行ってもいいですか。」
それが彼女の下した決断だった。
「ああ、俺も君といると楽しいかったよ。これからもよろしく。」
こうして、俺はアンとこの世界を旅することになった。
横でリリアさんがにやにやと笑っている。
「アン、一緒に行くと決めるとは思っていたけど、まさかあなたからプロポーズするとは思ってもみなかったわよ。」
「へっ。プロポーズ?」
「だって、『ずっとあなたについて行ってもいいですか』って言ったじゃない。」
あっ。確かにプロポーズと取れなくもないな。俺も気づかなかった。
「ちっ、違います。そういう意味でいったんじゃないです。」
アンは顔を真っ赤にして叫んだ。




