33 黒髪の聖女
騒動後、俺とアンは教会の一室に通されていた。そこでアンはリリアさんと感動の再会を果たしていた。
「リリアさん、いろいろ助けてくれてありがとうございました。おかげで転移者と出会うことができました。」
「いいのよ。神官として当然の行動よ。それより、アン。街を出るように言ったのに、無茶をしたわね。でも、おかげで助かったわ。
そしてあなたが転移者ですね。リリアといいます。この度は教会の内紛に巻き込むこととなり申し訳ございませんでした。」
リリアさんは俺に向かって、頭を下げる。
「あの、頭を上げてください。そんなに気にしていませんから。俺は葵 千波矢といいます。」
「葵 千波矢さんですか。・・・俺?」
そういえば、まだ変装をしたままだった。俺はカツラを外す。
「男の方だったんですか。」
リリアさんは呆然としながら俺をながめている。
「すみません。着替えてもいいですか。」
俺がワンピースを指差しながら尋ねると、リリアさんは「大神官様をお呼びしてきますね」といい部屋を出て行った。俺はその隙にいつもの服に着替えた。
リリアさんが大神官と一緒に戻って来た。
「はて、どちらさまでしたか。ところで黒髪の聖女様を知りませんか?」
大神官は俺を見ながら訪ねる。リリアさんとアンは横で笑っている。
リリアさん、大神官に俺が男だと伝えてないですね。
「大神官様、こちらの男性が黒髪の聖女様です。」
「なんと、男性でございましたか。いやはや申し訳ございません。」
「すみません。黒髪の聖女様ってなんですか?」
「実は・・・」
どうやら俺のことを称えて、神官たちの間で広まった称号らしい。黒髪の少女が毒の瘴気をものともせずに魔人の核を破壊し、その身に神を降臨させた、と。まさに聖女だと。
「おそらく、すでに王都中に噂は広がっていると思います。王子様が故意に流していましたから。ですから、今更訂正は無理だと思います。一応今から王子に具申してきます。」
そういうと大神官は部屋を出ていく。
どうやらプロパガンダに使われたようだ。魔人の悪だくみを阻止した英雄に祭り上げられたのだろう。きっと今頃噂に尾ひれがついていることだろう。
「たぶん、無理だろうな。まあいいか。これから変装しなければいいだけだし。」
「もう、女装はしないんですか。せっかくお姉ちゃんができたと思って嬉しかったのに。」
アンは非常に悲しんでいたが男の俺は聖女に祭り上げられる気はさらさらない。この変装道具は封印だ。




