325 勇者の試練
次の勇者に誰がなるか。問題はそこだった。
この中の誰かが勇者になれば、間違いなく神からの独り立ちはできるだろう。その結果、勇者になった一人はノエルの忠実な兵士、すなわち奴隷となる可能性があるのだ。
エリスとカグツチさんは辞退した。というか、神側の人なので人選的に無理があった。同じ理由からラインハットも無理だそうだ。リオンさんは実力的に難しい、とギルに言われた。シルビアはアンデッドであるため、ノエルに選ばれることはないそうだ。
となると、残りは俺、フィル殿下、アン、フミヤの4人だった。
「フミヤ、勇者になりた・・・くないみたいだな。」
俺がフミヤに聞こうとした瞬間、冷たい視線で答えを返してきた。
「そういう、千波矢はどうなんだ?」
フミヤが意地悪そうに聞いてくる。俺も嫌がると思っているんだろう。
「・・・そうだな。ハヤトが生まれたばかりだしな。」
俺の言葉にフミヤが申し訳なさそうな顔をする。フミヤは小さい息子を残し死んで、この世界に転生している。子を持つ親の気持ちは痛いほどわかるのだろう。
同じ理由でアンが外れると、フィル殿下になるわけだが、フィル殿下でいいのだろうか。
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やっぱりまずいよな。お家騒動になる可能性もある。クリス国王の手腕は確かだが、何かを成し遂げたわけではなかった。ここで弟のフィル殿下が勇者となれば、名声は逆転する可能性もある。少なくとも、フィル殿下を担ごうとする愚か者もでてくるだろう。他の者もその可能性にたどり着いたようだ。
「はあ、仕方ない。俺がしよう。大神ノエル様。私に勇者の試練を」
そういったのはフミヤだった。他の者が止める暇もなくフミヤの周りが光輝きだした。これは見覚えがある。俺がこの世界に転移する時もこんな感じだった気がする。
ということは、フミヤはどこかに転移させられるのか?
「それじゃあ、行ってくる」
フミヤはそう言うと光の中に消えた。俺たちは突然のことに状況を理解するのに時間を要した。
「ギルの時といっしょです。ギルの時は1日程したら、再び光が現れ、その中からギルが出てきました。」
シルビアさんがそう説明してくれた。つまり、フミヤは勇者に試練を受けるためにノエル様の元に呼ばれたのだろう?
ノエル様の試練ってどんなのだろう?
そう思って、ギルの方を向くと、ギルは首を横に振る。
「悪いけど、試練の内容は覚えていないんだ」
「となると、俺達はフミヤを信じて待つしかできないという訳か」
「そうだな。」
俺たちはこの館でフミヤを待つことにした。幸いなことに、食料などは魔法のカバンに入っていた。湖の小屋に生活に必要な道具もそろっていたため、特に問題はなかった。
1日たったがフミヤは帰ってこなかった。まだ、1日だ。ギルは1日でクリアできたようだが、フミヤもそうとは限らない。俺たちはそれほど心配はしていなかった。更に3日が経った。未だにフミヤは帰ってきていない。流石に少し不安になってきた。それでもノエル様の試練である。命の危険が迫るようなことはないはず、と自分に言い聞かせて待つことにした。更に3日経った。これで1週間である。さすがに重い空気が場を支配していた。皆、口には出さないが、不安の色を隠せていなかった。




