324 勇者
「ギル、帰るぞ。」
リオンはそう言って、ギルに手を差し出すが、ギルは手を取らなかった。
「父さん、勘違いしてるようだけど、ノエル様の試練は終わってないんだ。いや、ここからが本番なんだ。」
「馬鹿な。お前が『はい』と言えば、それで終わるんじゃなかったのか?」
「・・・・・・ノエル様の使徒は他の使徒とはちょっと違うんだ。それについては千波矢たちがついてから説明するよ。来るんでしょう?」
「ああ」
「やっぱり。父さん、抜け駆けしたんだね。」
「・・・・・・・」
「わかってるよ。父さんの気持ちは」
ギルは憑き物が落ちたかのように晴れ晴れとした表情をしていた。二人は何気ない会話をしながら、千波矢たちが来るのを待った。
扉が開き、誰かが入ってくる音が聞こえる。
「来たみたいだな。」
「ああ。」
しばらくすると、千波矢たちが広間に入ってきた。先頭にフミヤとシルビア。続いて千波矢とアン、そしてフィル殿下・・・。
ギルはフィル殿下の姿を見ると思わず跪く。そして、フィル殿下もギルに気がつくとゆっくり近づいてくる。
「ギル、久しぶりだね」
「お久しぶりです、王子。いえ、今は殿下ですね」
「あはは、ギルには殿下って呼ばれるとなんだかむず痒いね。王子でもいいよ。」
「いえ、そういう訳にはまいりません。失礼をしました」
そう言って、ギルは土下座をする。懐かしい光景だ。フィル殿下もこの光景を懐かしんでいるようだ。
「変わらないようで良かったよ、ギル。」
「いえ、私が今こうしているのは父のおかげです。」
「リオンの?」
「はい。・・・・・・殿下、そして千波矢たちに伝えるべきことがあります。勇者についてとノエル様の試練についてです。」
ギルが真剣な表情で語ってきた。その瞬間、アシアナの表情が暗くなる。そして、ギルから伝えられた内容はとても衝撃的なものだった。
勇者になるためには試練を受ける必要があるそうだ。試練を受けるにはそれなりの資格が必要である。具体的に言うと勇者のスキルを使うことのできる実力があるかである。また、試練を受けるにはヒトに何かしらの災厄が降りかかっている時のみ可能となる。したがって、平時に勇者が現れることはない。
資格のあるヒトが勇者になることを望み、ノエル様がその時だと認めた時に、試練を受けることができる。そして、試練を乗り越えるとノエル様と契約を交わすことになる。
災厄を打ち破る力を得る代わりにノエル様の忠実な兵士となるという契約だ
「俺は新たな魔王に対抗する力を得るために勇者となった。その結果、魔王を超える力を手に入れた。そして、エリザベートさんが魔王を倒した後、ノエル様に体を支配されたんだ。」
衝撃的な事実だった。大神ノエルに体を支配される。こんなことが本当にあるのだろうか。だが、ギルが嘘をいっているようには感じられなかった。ラインハットやエリスも真相は知らなかった。
「・・・それで、試練の話に戻るんだが、俺は親父との戦いに負けて、勇者の力を失った。そのため、資格あるものが新たな勇者になることができる。ノエル様によると次に勇者になるものがヒトが神から独り立ちすることを望むなら、それを受け入れるそうだ。」
ギルは話し終えると深いため息を付いた。




