322 勇者という呪い
「シルビアさん、ギルはどこですか?」
「ギルさんはこの先の城であなた達を待っています。ところで、他の方はどうしたのですか?」
「・・・一人で来た。」
シルビアさんは一瞬驚くが、すぐに真顔に戻る。
「リオンさん、あなたにギル様んの身に何が起こったのかお教えします。どうか彼を救ってあげてください。」
「ギルを救えとは?」
「ギルさんはおそらく勇者という呪いに囚われています。」
「勇者という呪い?」
「はい、勇者の力を得るとき、彼は勇者の試練というものを受けました。そこで大神ノエル様から何か使命のようなものを受け取ったようなのです。」
「・・・・・・」
「彼はその使命を果たそうとするあまり、善悪の判断を誤っているような気がするのです。」
「わかった。道から外れた子を説教するのは親の役目だな。」
リオンはそう言うと、黙って息子の待つ城に向かうのだった。
城は島の中央部に位置した。周囲を森で覆われ、森の外から見ることはできない。知らなければ着くのは難しい立地であった。
城に入るとどこからともなく声が聞こえてきた。
「父さん、他の人はどうしたの?まあいいか。どうぞ、歓迎するよ」
辺りを見渡してもギルの姿は見当たらず、代わりに目の前に大きな扉があるだけだった。その扉はおそらく広間へのつながっているのだろう。そして、誘っているかのごとくに観音開きとなっていた。リオンは疑うこともせず、扉をくぐり奥へと進んだ。
予想通り、大広間にたどり着いた。ギルは広間の中央に立っていた。ギルを見たリオンは愕然とした。あきらかにやつれた顔などは身内でなくとも心配するレベルであった。
「ギル、お前一体何があった?」
「父さん。そんな話をしいきたんではないでしょう。試練を始めましょうか。」
ギルはそういうと腰にある剣を抜いた。
「試練とはお前を倒すことなのか?」
「まさか、違うよ。ただ、俺を倒すのは前提条件だね。」
「そうか、わかった。」
リオンは緊張しながら剣を抜く。前回、戦った時は純粋な剣の技量で敗けていた。あれから剣術の研鑽を続けてきた。すでに4つの奥義も習得している。ギルの剣術の技量も増しているだろうが、おそらく剣の技量だけならギルに迫っているだろう。だが、あの時と違うのはギルが勇者になっているということだ。勇者のスキル、これを使われたら勝ち目はないだろう。
「心配しなくても、手加減はする。勇者のスキルは一切使わないから。純粋に剣の勝負だ」
ギルはこちらの心を読んだかのように言ってきた。舐められているのかは分からないが、こちらとしては有難かった。伝説に聞く勇者のスキルを使われたら勝つ見込みなど全くないからだ。悔しいが、そこに正気を見出すしかないからだ。
この戦いには絶対勝たねばならなかった。神から独り立ちするために。親として、子の目を覚まさせるために。そして何より、騎士として勇者になったギルに勝ちたいという気持ちが強かったからだ。
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