320 前夜
残るはギルの試練のみとなった。そして、ギルの居場所はすでに分かっている。現在、最後の試練に向けて準備を行っていた。そのため、出発は1週間後となった。まあ、1週間という期間は準備というよりは龍王への使節団に参加したメンバーの休養という意味合いが強いのだが。
ブレイブルク出発の前日、兵士が慌てて国王の執務室に飛び込んできた。
「陛下、大変です」
「どうした?」
「勇者ギルの父親であるリオン様のお姿が見当たりません。出発前の最終打ち合わせに来られないため、屋敷に行ったところ、数日前より姿が見当たらないとのことです。」
兵士の言葉にクリス国王は思い当たる節があった。おそらく、リオンは一人ギルの元に向かったのだろう。彼はギルが国王の意に反した行動をしていることにひどく遺憾の意を示していた。そして、できることなら自らの力で解決したいとも言っていたからである。
「わかった。このことは他言無用だ。他のメンバーは集まっているのだな。リオンのことをそのまま、伝え、フィルの判断を仰げ。」
「はい」
兵士は敬礼するとすぐに退出する。
「はあ、やはりこうなったか。」
兵士が退出したのを確認したクリス国王は大きくため息をつくのだった。
兵士からリオンさんのことを聞かされた俺たちはすぐにリオンさんを追いかけるかどうかで議論することになった。結局、出発は予定通りということになった。今すぐに出発してもリオンさんには間に合うかどうかわからない、と言う結論にたどり着いたからだ。仮に間に合ったとしても、リオンさんを止めるのは難しい、という事もあった。ギルと相対するメンバーは前回と龍王への使節団のメンバーに白羽の矢が立ち、フィル殿下、俺、ラインハット、フミヤ、アン、エリス、カグツチさんの7名が参加することになった。残りの2人、リンドットさんとヨシツグさんは今回は見合わせることになった。リンドットさんは自らの実力の低さから辞退し、ヨシツグさんはバーサーカー化の負担から未だ回復しきれていないため、ドクターストップとなった。
明日の朝一番に出発し、神鳥ロックで直接島まで行く予定だ。リオンさんの無事は祈るしかない。今夜は明日のギルとの対決に備えて、英気を養うことになった。
フィル殿下などは複雑な心境だろう。この中で一番付き合いが長いのだ。何しろギルは、ギル殿下の護衛の騎士として側に使えていたのだから。
俺とアンとフミヤも一と気とは言え、一緒に旅をした中である。それぞれ思うところがある。
俺はラインハットと王城の一室で酒を飲んでいた。以前はあまり飲もうとも思わなかったのだが、最近はストレスを感じることが多く、飲みたくなる。まあ、ものすごく弱いため、一杯程度しか飲まないが・・・。
「ラインハット。ギルの試練ってどんなのだと思う?」
「さあ?僕に聞かれてもわかんないよ。たぶん、どんな試練をするかはギル本人が決めるんだと思うよ。たぶん、ノエル様が決めることはないと思うから・・・。」
ラインハットにも分からないようだ。まあ、何が待ち受けていようと、明日ですべてが終わるのだ。俺がすべきことはただ一つだった。全力を尽くすのみだ。俺は明日に備え、ゆっくり体を休めることにした。
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