32 希望
「さて、転移者よ。そなたには謝らねばならぬな。」
突然、リンガル様の声が脳裏に飛び込んできた。
「お前には2つ謝らねばならない。1つはその【神々の悪戯】。そのスキルは我が弟、アルカディアがお主に刻んだスキルだ。長い年月で魂と深く絡みついている。もはや切り離すのは不可能だ。」
「それは覚悟していました。」
「もう一つはラインハットのことだ。いろいろと迷惑をかけたようだな。有用な奴だがちょっと抜けたところがあるのでな。迷惑をかけたお詫びにマジックアイテムを与えよう。きっと役に立つはずだ。その魔法のカバンに入れておく。後で見るとよい。もちろん、その魔法のカバンもそなたの物だ。」
ラインハットに口止めされていたが、どうやらばれたようだ。ラインハットかわいそうに。
「ラインハットの説明にもあったと思うが、転移者は本来神の駒としてこの世界に存在している。ここでそなたに任務を言い渡す。勇者について調べよ。できる範囲で構わん。魔王に対抗できるのは勇者だけではないが、この世界では勇者の存在は希望なのだ。よろしく頼む。」
リンガル様はそういうと存在が完全に感じなくなった。それと同時に俺とアンを包み込んでいた光も完全に消える。後に残ったのは魔王復活の報と勇者に関する不確定な情報だけだった。
神官たちは絶望に打ちひしがれていた。この世界の人にとって勇者という存在は希望だったのだろう。・・・希望。
「大神官。何をしている。神は『魔王の復活に備えよ』と仰られたのだ。すぐさま、行動に移すべきであろう。何を打ちひしがれている。」
大聖堂の入り口から叱責の声が飛ぶ。そこには立派な服を着た若者が立っていた。後ろには二人の騎士が控えている。
「王子。ですが、勇者が現れない今、魔王にどう備えるのでしょうか。」
「大神官よ。神の御言葉を思い出せ。リンガル様は去り際にこう仰られた。『希望はある』と」
そこから王子の手腕はたいしたものだった。今回、王都で魔人が出現し、その後神が降臨し魔王の復活を告げた。しかも、勇者の出現は否定された。マイナスイメージの多い出来事のオンパレードだった。このままでは民衆にパニックが起こってもおかしくなかった。
王子は魔人はすぐに討伐され、王都の守りは安全であることをアピールした。魔王が近々復活することも発表したが、それと同時に「神から対処法の啓示も受けた」と発表した。そう希望はある、という言葉だ。そして、魔王対策会議を立ち上げた。