318 最終段階
ヒト族と龍族の約定の締結は史上初の出来事であったらしい。
「それで、何人の承認を得られたんだ?」
「何のことでしょうか?」
「なんだ。ラインハットに聞いていないのか?大地母神ガイア様と大神ノエル様の間で交わされた約定についてだ。」
龍王の言葉でラインハットに注目が集まる。明らかにラインハットの顔色が変わる。
「バハムート。なんで言っちゃうの!それは教えちゃダメなことなんだよ。」
ラインハットが龍王に対して激しく怒り出した。
「そ、そうなのか?」
ラインハットが激しく怒ったため、龍王がたじろぐ。ラインハットは慌てて、指を折りながら、何かをカウントし始める。
「アルカディア様、リンガル様、エリーゼ様、リリアン様、ガリウス様。せっかく5人の上級神が承認してくれていたのに・・・。」
ラインハットはひどく落胆すると大地に膝をつく。
「千波矢君、ごめんね。これで失敗になっちゃったよ。」
どういうことだ?
「ヒトがきちんと独立できるようにノエル様とガイア様の間でいろいろ取り決めがあったんだ。そのうちの一つが最終段階になるまで、この約定についてヒトに教えてはいけないってきまりがあるんだよ。知られたら、すべてパーなんだけど・・・」
「最終段階?」
「うん。8人の上級神に承認された状況だよ。そうなって初めてノエル様に直談判できることになっているんだ。」
「つまり、8人の上級神に認められて、ノエル様に認められれば、神からの独り立ちは叶っていた。」
「そうだね。ただ、まだ上級神の承認は5人だから・・・。」
・・・それはかなりまずくないか。龍王もそのことは知らなかったらしく、ばつの悪そうな顔をしている。
全員何が起こるのかと固唾を飲んで見守っている。
・・・
・・・・・・
何も起こらない。
「どういうことかな?」
ラインハットも戸惑っている。彼にも何が起こるのか分からないのだ。
「ラインハット。心配する必要はない。」
光が降り注ぐとその中から一人の男が現れた。
「ヤクシジさん?」
ラインハットがポツリと言葉を漏らす。
「「「「「ヤジシジ!」」」」」
その場にいる全員が驚きの声を上げる。ヤクシジ、武神アリオスの使徒にしてヒト最強の武人。王国でずっと探していたが見つからなかった加護持ちの一人だった。
「ヤクシジさん、ということはもしかして」
「ああ、すでにアルオス様は認めている。そして破壊の神が承認している。」
「シヴァ様が?」
「なんでもそこの冒険者の祖先がシヴァ様の使徒だったらしく、目を付けられていたそうだ。時々、力を貸したりもしていたらしい。」
「そ、そうなんだ。それで彼はバーサーカーになっても返ってこれるんだね。」
「ほお、バーサーカーか。」
ヤクシジが興味の目でヨシタカを見る。強いものと戦いたいという性でもあるのだろうか。
「でも、まだ7人だよ。後一人は?」
ヤクシジは黙って龍王を指さす。
「えっ、龍王は下級神でしょう」
「龍王は立場的には下級神だが、実力は上級神だ。しかも、龍族全体の承認となれば、上級神の承認と見なせる、となったわけだ。そこで、お前たちに知らせるようにと俺が遣わされたんだ。」
どうやら、龍王がしゃべる直前で条件が達成されていたようだ。横で龍王が安堵のため息を漏らしている。やはり彼もビビっていたようだ。
兎にも角にも、これで俺たちはあと一歩というところまで来たのだ。
もう少しで、完結予定です。
明日より、新しいお話も投稿していこうと思います




