316 龍王との会談3(決裂?)
俺達の眼前には巨大な黒い龍が立ちふさがっている。今にも襲ってきそうな感じだ。この場で戦闘になった場合、俺達に勝つ可能性はない。いや、正確に言えば、俺達の命はおそらく尽きるだろう。その結果、クリス国王が心変わりをしたのなら、神により、龍への粛正が行われ、龍王は再び封印されることになるだろう。
これが事前にラインハットとエリスが語っていたこの会談の結果の一つだった。龍王は封印され、ヒト族は再び神の傘下となる。人と龍が戦った結果は、「両者とも負け」というのが二人の見解だった。
ここで、一人だけ予想もしない行動をするものが現れた。ヨシタカである。先ほどまで、龍王の重圧に屈していた彼だったが、戦闘開始というこの状況で立ち上がるとフィル殿下と黒い龍の間に立つと剣に手を掛け、反撃体制をとったのだった。
「ヨシタカ、決してこちらから手を出すな。」
フィル殿下から厳命が飛ぶが、果たしてヨシタカは聞こえているのだろうか?どう見ても正気には見えなかった。目の焦点は合っておらず、「アハハハハッ」と僅かに笑い声まで聞こえている。
「ねえ、千波矢君。彼、すごいよ。彼はバーサーカーだよ。」
「バーサーカー?」
「うん、戦闘になると、死ぬまで戦い続けるっていう狂気の戦士のこと。狂気に身をゆだねることで通常の10倍の力を得ることができるとかなんとか・・・」
「それってまずくないのか?」
「うん、普通はね。一度バーサーカーになっちゃうと元に戻れないヒトが多いんだ。でも、彼は見事に狂気を乗りこなしているね。たぶん、元に戻ってこられると思うよ。」
ヨシタカの状態を見た、他の龍が警戒態勢をとる。まだ、人化は解いていないが、いつでも戦闘に入れるように身構えている。
「ほお、面白いヒト族もいるものだな。・・・よし、もし、そいつを倒すことができたら、話ぐらいは聞いてやろう。」
龍王がとんでもない提案をしてきた。普通に考えて、ヒトが龍と戦って勝てるわけがない。フィル殿下は急いで断ろうとするができなかった。龍王の言葉を聞いた瞬間、ヨシタカと黒い龍が戦闘を開始したからだ。
エリスが慌てて結界を張る。戦いの余波から俺たちを守るためだ。ヨシタカが剣を振るうと衝撃破が見境なしに周囲を破壊していった。黒龍のブレスが周辺を灼熱地獄にしていく。
驚いたことに、ヨシタカは一見、黒龍と互角の戦いをしていた。
「まずいね。彼、このままだと負けちゃうね。後、10分といったところかな。」
ラインハットの無慈悲な予想をする。そして、この予想は間違っていないだろう。
一見互角の勝負をしているように見えるが、ヨシタカの魔力消費は明らかにオーバーペースだった。
「仕方ない。俺が助けるか。」
見かねたフミヤが笑いながら結界の外に出た。そして、何かスキルを使用した瞬間、戦いは終わっていた。ヨシタカと黒龍は意識を失ったのか地面の倒れ、ピクリとも動かない。そして、フミヤは魔力欠乏のためか、息を大きく切らせながら座り込んでいた。
「ほお、エルフよ。お主、リンガル様の使徒だったのか。」
龍王がフミヤに問いかける。
「ああ、成人の儀の時に引き当てたんだ。【超越者】ってスキルをな。」
フミヤが息を整えながら答えると、龍王は俺たちの方をじっと見つめる。
「よく見ると、えらく使徒が集まっているな。幸運の神リリアン、愛の女神エリーゼ、それに・・・時の神アルカディア・・・様!?」
龍王が俺らの素性に気づいていく。そして、倒れていて動かない部下の黒龍を見ると、観念したかのように呟いた。
「仕方ない。約束は守ろう」
そう言うと、龍王は腰を下ろした。




