312 親善の使節団
1週間後、王都から招集があった。龍王と話し合いに行く人選が決まったからだ。俺とアンはハヤトをマーサさんに預けると、迎えに来たラインハットとエリスと共に王都に向かった。
エリスの推薦した人物、フィル殿下とフミヤは今回の話し合いに参加することになったそうだ。フィル殿下の参加に関してはかなりの反対があったそうだ。話し合いとは言え、危険度の高い任務である。なにしろ、相手は龍王バハムートである。話し合いが決裂し、戦いとなった場合、間違いなくこちらは全滅するだろう。いや、そもそも話し合いにすらならない可能性もある。そのため、王族であるフィル殿下が参加するのは問題があるとされたのだ。
ラインハットによると、龍王バハムートは格でいうと下級神とほぼ同等であり、実力的には上位神に迫るものがあるという。そのため、「派遣する使節団の中に王族がいないのは問題があるのでは」という意見も当然出てきた。後で聞いた話によると、その意見を言い始めたのはどうやらフィル殿下自身だったそうだ。つまり、フィル殿下は自ら周囲を説得してこの使節団の団長の立場になったのだ。
そして、フミヤだが、意外にも、彼は素直に従ったそうだ。エルフの森に帰っていたフミヤに遣わされた使者は拒否されて追い出されるものだと思っていたそうだ。ところが、話を聞いたフミヤはすぐに旅の準備をはじめ、一緒に王都に参上したとのことだった。使者だけでなく、クリス国王もこのことには大変驚いたそうだ。
王都にたどり着くと、すぐに会議が開かれた。どうやら、俺達が一番最後にたどり着いたようだ。いつもの会議室にいつものメンバーが集まっている。代り映えのないメンバーだ。
「今回の親善の使節団の団長には我が弟、フィルに任せようと思う。フィル、後は頼む」
クリス国王はそういうと、会議の進行をフィル殿下に譲った。フィル殿下は緊張した面持ちで立ち上がる。傍から見ていても緊張しているのが分かる。なにしろ、この親善には国の命運がかかっていると言っても過言ではない。
「まずは使節団のメンバーを発表していこうと思う。副団長には千波矢殿に頼もうと思う。」
他の参加者が俺に注目する。俺は黙ってフィル殿下に向かって頭を下げる。
「実際に龍王との交渉の場には私と千波矢殿の他にはフミヤ殿、ラインハット殿、アンさんが担当することになる。護衛には王国の騎士団数名と冒険者ギルドから1名が参加予定だ。何か質問や意見のあるものはいるか?」
王都では事前にかなりの話し合いが行われていたのだろう。苦々しい顔をしている者もいるが、ほとんどのものが納得しているようだった。そのため、意見を言うものなどいるはずがなかった。
「ちょっといいかな?」
いや一人だけ空気を読まない奴はいた。だが、今回はラインハットの肩を持とうと思う。何しろ、需要な参加者が一人抜けていたからだ。
「なんでしょうか、ラインハット殿」
「えっとね。護衛?の件なんだけど、エリスがね、龍王の元まで運んでくれるっていってるんだ。どうする?」
「あの、エリスというのは?」
「ああ、僕の妹だよ。現、獣の神だよ」
「「「「「「獣の神!?」」」」」」
参加者原因が驚きの声を上げる。そりゃ、そうなるよな。構わずにラインハットは続ける。
「えっとね。交渉にはもちろん手を貸さないけど、行くまでの間の安全は保障するって。ただ、神鳥ロックには10人ぐらいしか乗れないから、使節団の人数は8人までに抑えてもらうことになるけどね。」
「・・・・・・、わかりました。人選は明日までに決めておきます。」
その後、いくつか細かいことを確認していった。そして、出発は3日後ということになった。




