311 誓いの言葉
王都に連絡を取り、エリスの提案を伝える。案の定、フィル王子については「危険である」という理由で反対意見が噴出した。当の王子自身はやる気でいた。後は、王子自身が勝手に周囲を説得していくことだろう。
そして、フミヤに関しては王宮から使者を送ってくれることになった。そして俺はアンの説得、いや、違うな、正確には俺自身の説得をするためにリンカーンに戻ることにした。
「おかえりなさい」
アンは笑顔で俺を出迎えてくれた。その腕の中にはハヤトがスヤスヤと眠っている。
「アン、ハヤト、ただいま」
この光景を見て俺の決心は鈍る。レストンからリンカーンへの移動中、必死に自分の気持ちを押さえつけようとしたが、その努力はアンとハヤトによって見るも無残に壊されてしまった。
「・・・千波矢さん。何かあったんですか?」
アンは俺の表情の変化に気づいたようだ。心配そうに尋ねてくる。
「・・・じつは」
俺はアンに龍王バハムートと話し合いを持つことになったこと、その会談のメンバーにアンの名前が挙がったことを伝えた。
「それで悩んでいたんですね。大丈夫ですよ。私も参加しますから」
アンは笑顔でそう答えた。
「でも、今回の任務はかなり危険だ。龍王が襲ってきたら派遣団は全員死ぬだろう。できれば、君に参加してほしくないんだ」
「でも、千波矢さんは参加するんでしょう?」
「ああ。俺はいつの間にかそういう立場になったからな。」
この世界に転移してから8年ぐらいだろうか。その間に貴族となり、領主となった。国王の懐刀と呼ばれたりもする。国王の改革の屋台骨を支えているのも俺である。
この世界の調剤や医学の発展に大きく貢献もした。初代調剤ギルドギルド長、初代リンカーン研究所所長などの役職までも得ている。
また、俺はアルカディアという時の神の使徒であることも判明した。かなり高位の神らしく使徒の中でもかなり上の立場のようだ。転移者であることも相まって、この手の問題事には巻き込まれることが多かった。スキル【神の悪戯】のせいかもしれないが。
こうしてみると、この8年間はいろいろなことをしてきたな。
「千波矢さん、どうしたんですか?いきなり物思いにふけって。」
「ああ、ごめん。ちょっと、この8年でいろいろなことがあったと思ってな。」
「そうですね。いろいろなことがありましたね。私たちの結婚式のことを覚えてますか?」
「ああ、もちろん覚えているさ」
あの時、愛の女神エリーゼが降臨し、アンに加護を与えたのだ。そういえば、あの時・・・・・・。
「千波矢さん、思い出しました?私たちはあの時、エリーゼ様に誓ったはずです。守ってくださるんでしょう?」
ああ、そうだった。俺はあの時エリーゼ様に誓ったんだ。
「アン、俺は君がついてきてくれる限り、命に代えても君を守るよ。」
俺は気がつくとアンの前に立ち、あの時の誓いの言葉を再び口にしていた。アンほその言葉を嬉しそうに聞くとアンも立ち上がった。
「ええ、私もどんな試練が待ち構えていてもいっしょについていきます。」
アンも誓いの言葉口にした。当時の状況が鮮明に思い出してくる。俺は胸の底から淡い気持ちが湧き上がってくる。気がついたら、俺はアンを抱き寄せるとキスをしていた。




