310 エリスからの推薦
俺は対策会議を欠席したラインハットと相談するためにレストンに来ていた。ラインハットはレストン領主就任をしたばかりであったためだ。
「へえ、バハムートと交渉するの。頑張ってね」
「ラインハット。お前もメンバーの一人だぞ。」
「えー。僕、あいつ理屈っぽいから苦手なんだよ。」
「それは残念だったな。お前は決定だ。後はエリスに護衛を頼めないかと思ってるんだが、どうだろうか?」
「うーん。それは本人に直接聞いてよ。今、南の毒の平原でバカンス中だから。」
「南の毒の平原・・・。ああ、あそこか。」
毒の平原とはリストンとリンカーンの間にある平原で毒の瘴気が発生する危険な地域である。以前、俺はそこで幸運の石を手に入れ、婚約指輪を作ったことがあった。
「だからちょっと千波矢君。行ってきてもらっていいかな。」
「俺がか」
「結構奥地にいってるから千波矢君以外いけないんだよ。」
「俺もベノムドラゴンに出会ったらアウトだぞ。」
「ああ、そっか。それじゃあ、帰ってくるのを待とうか。たぶん、2~3日もすれば帰ってくると思うよ。」
「わかった。」
「それで他に誰が会いに行く予定なの?」
「ああ、それなんだが、・・・俺とお前以外決まっていない。」
「えっ!?どういうこと」
「みんな嫌がって、押し付けあったんだ。そこで仕方なく俺が立候補して、お前を推薦したんだ。」
「そんな横暴な。」
「欠席するお前が悪い。」
「領主就任でなんやかんやで忙しかったんだよ」
「もう、暇だったんだろ。マリウスからすべて聞いているぞ。」
そういうと、ラインハットは頬を膨らませて、「裏切者ー」と呟きながら拗ねていた。その後、ラインハットの機嫌はいっこうに直らなかったため、話し合いはエリスが帰って来てからということになった。
2日後、エリスが帰ってくると、再び話し合いを開始した。ラインハットの機嫌は未だに良くはないが、無視してエリスと話し合うことにした。
「わかりました。龍王の元への行き帰りの護衛は引き受けましょう。ただし、龍王との交渉中については一切関与しません。」
「わかった。それだけでも構わない。ありがとう」
「いえ、それは構いません。こちらも母様の悲願がかかっていますので。それで、誰が一緒に行かれるのですか?」
「ああ、それをラインハットと話し合おうと思っていたんだが、あの状態何で、どうしようかと思っていたんだ。」
「・・・このような兄で申し訳ないです。」
「いや、エリスのせいじゃないから」
エリスに謝られてしまい、逆に申し訳なくなってしまう。
「お詫びと言ってはなんですが、一つアドバイスをさせていただきます。他のメンバーですが、フィル王子、フミヤ、アンさんの三名を推薦します。」
「フィル王子、フミヤ、アンの三人って」
「そうです。全員、上級神の使徒です。龍王と渡り合える格を持っているヒトと言えば、上級神の使徒以外にないと思います。」
エリスの言うことももっともだった。だが、・・・。
「わかった。3人と連絡をとってみるよ。」
俺はすぐに決断することができなかった。3名の中にアンの名前があったからだ。貴族として人の上に立つ身としては身内びいきになってはならないのだろうが、やっぱりアンには危険な目にはあってほしくはないのだ。俺は複雑な気持ちでこの場を去ることになった。




