31 リンガル降臨する
「我が名は、リンガル。主神ノエルの息子にして汝らの守護神なり。」
天から声が聞こえる。とても厳かな声だ。
その声を聴いて、大神官以下すべての神官がその場にひれ伏す。彼らは直感で神であると判ったのだ。
アンはいつの間にか気を失っている。俺はそれを後ろから支えていて動くことができない。
「まもなく魔王が復活する。復活に備えよ。」
神の突然の告白に神官たちは騒然とする。
「リンガル様、ご質問をよろしいでしょうか。」
大神官が質問をする。
「構わん、申せ。」
「勇者はいつ復活するのでしょうか。」
「勇者については神々は関与していない。そもそも、勇者という称号は神が与えたものではない。ヒトが考えた称号だ。」
「そんな、勇者は神の力を与えられ、魔王を封印したと伝えられています。」
「お前たちが神の力、と呼んでいるものはスキルのことだ。確かに初代勇者にスキルを与えたのは我だ。だがそれは10歳のスキル授与でのことだ。」
「つまり、勇者は神の力を偶然手に入れただけだと・・・。」
「そういうことになるな。」
大神官は困惑している。リンガル様の言っている内容と自分の知っていることがかなり違っているのだろう。
俺は二人の会話を聞いていて一つ疑問が生まれた。大神官は「勇者」といい、リンガル様は「初代勇者」と言っている。初代ということは勇者は何人もいるのか。そして、神の力を代々勇者が使用していたのなら、初代勇者のスキルは代々の勇者が引き継いでいたことになる。そしてそのことを大神官は知らないのか。
「そなたの予想は間違っていない。我に言えるのはそこまでだ。」
リンガル様は俺の方を向くと静かにそう語りかけてきた。
「よいか。もう一度言うぞ。魔王の復活に備えよ。希望はある。」
リンガル様は神官たちの方を向き直すと、力強くそう言い放った。それと同時に天から指していた光が消えていった。