306 内定
あまりの衝撃だったのか、数秒間固まっていたが、ラインハットは首を横に振りながら反論してきた。
「ちょっと待って千波矢君。何で僕なの?」
「なんでって、どう考えても適任だろ?」
「いやいや、王都で探したら、僕より政治経験豊富な人はいっぱいいるでしょう?」
「ラインハット。今度の都市は魔道都市だっていっただろ。ある程度、魔術に秀でた奴でないとだめなんだ」
「えー。それじゃあ宮廷魔術師の人は?」
「彼らはリンカーンの都市づくりには参加していないからリンカーンと連携をとるのが難しい。」
「・・・・・・!?そうだ。マリウスはどう。適任でしょう。」
急に話題を振られたマリウスが驚き、俺の方を向く。僕は絶対に無理、というシグナルを送る。マリウスには魔術師ギルドのギルド長を続けてもらわないといけない。当然、やらせるつもりはない。
「いや、マリウスは貴族じゃない」
「爵位なんて簡単にあげれるでしょう?」
「簡単にあげれるわけないだろ。それなりの功績がいる。マリウスも候補の一人だったんだが、爵位に関してはどうしようもなかった。」
ラインハットは次の言い訳をかんがえているが、なかなか思いつかないようだ。表情がどんどん曇ってくる。
「いや、あのそれじゃあ、えっと・・・・。そうだ、僕、小さい娘もいるし、やっぱり引っ越すのはちょっとあれかも・・・。」
「ラインハット。俺にもハヤトがいるが、問題なくやっている」
「えーでも、アシアナにも聞かないといけないし」
だんだん断る理由がなくなってきているようだ。
「それじゃあ、アシアナが良いっていったら、受けるな」
「えっと。・・・たぶん。だからちょっと家に帰って聞いてくるよ。」
ラインハットはそういって席を立とうとする。おそらくこのまま帰るとアシアナに相談しないで「No」という返事を出すだろう。ラインハットとは長い付き合いだ。当然行動は読めている。
「心配するな、ラインハット。すでにアシアナとエミリーには相談して返事は貰っている。」
俺がそういうと、ラインハットは呆気にとられていた。俺が部下に合図を送ると、隣の部屋からアシアナとエミリーを連れてくる。
「アシアナ。聞こえていただろう。ラインハットが渋々だが領主就任を引き受けてくれた。すまないがよろしく頼む。こいつを支えてやってくれ。」
俺がそういうとアシアナはにっこり微笑んで頷いた。
ラインハットは状況が理解できないみたいでポカンと口を開けたまま状況の推移を見守っていた。
『ラインハットに知られずに外堀を埋める』
非常に困難な任務だったが、成功したようだ。こうして、ラインハットは隣の町レストンの新領主となることが内定した。




