28 状態回復魔法《キュア》
なるほど、敵が書いたシナリオが見えてきた。
サモン草で幻惑状態にして、その間に大神官を失着させて自分が後釜に付こうとしているのだろう。しかも、教会の指針を変更することで自分に都合の良い教会に作り替えようとしている。よくある手だが、王族の承認はどうするのだろうか。まさか王族を幻惑状態にするわけにもいかないはずだ。もしかしたら、王族の中にも敵勢力がいるのかもしれない。
「アン、状態回復魔法を使える?」
「使えるけど、まだレベルが低いから一人にしか使えないよ。広範囲で使えるのは高位の神官だけだよ。」
アンは時折、自分の頬を両手ではたきながら答える。必死に幻惑と戦っているようだ。
作戦が決まる。アンの状態回復魔法で高位の神官に使い、その神官が広範囲の状態回復魔法を使えば、大聖堂の幻惑が解けるはずだ。そうすれば、禁止されているサモン草を使ったゼロスたちは失脚するだろう。
問題は誰に状態回復魔法を使うかだ。幻惑を解いた相手が敵方だったら目も当てられない。
誰か適任者はいるだろうか。
・・・
そうだ。リリアさんは間違いなく味方のはずだ。
「アン、リリアさんは広範囲の状態回復魔法は使えるか?」
「はい、先輩は使えるはずです。」
「リリアさんはどこにいる。」
「えっと先輩は・・・あそこですね。」
リリアさんは意外にも近くにいた。ここから目と鼻の先である。ただし、一般市民エリアと神官エリアの境界線を超えないといけないが。
祭壇には再びゼロスが立っている。議題が大神官の去就になってきている。おそらく、隣に立たされている初老の男が大神官だろう。急がないといけない。このまま行くとクーデターは成功するだろう。
「アン、リリアさんに状態回復魔法をかけてくれ。できるか。」
「わかった。」
俺とアンは神官のエリアに向かって走り出した。周りの人は全員幻惑状態のためか誰も気にしない。アンはリリアさんの側に行くと呪文は唱えた。
「状態回復魔法」
白い光に包まれたリリアさんは正気を取り戻す。
「これは一体?あなたは?」
困惑している。詳しく説明している暇はない。
「リリア先輩。みんな困惑状態にかかってます。状態回復魔法を使ってください。」
アンがリリアに向かって叫ぶ。
「その声はアン?・・・そういうことね。分かったわ。」
そう言うとリリアは精神を集中させて呪文を唱える。
「状態回復魔法」
その瞬間、大聖堂中が白い光に包まれた。




