21 先輩からの連絡
「あっ、ちょっと待って」
帰ろうとする俺たちを受付嬢は呼び止めた。俺は早くこの空間から去りたいのだが。
「アンさん。リリアさんを知ってる?」
「はい、教会で私を指導してくれた先輩です。」
「やっぱりそうだったのね。手紙を預かっているので渡しておくわね。」
「手紙ですか。」
「ええ。アンっていう赤毛の元神官見習に渡してほしい、って依頼があったの。その子の特徴は身の丈程の大剣を背負った少女、ってことだったんでアンちゃんじゃないかと思ったの。」
その特徴はすべてアンに当てはまる。間違いないようだ。どうやら、先輩の方から動きがあったようだ。
「その依頼、いつ受けたんですか?」
「今日の昼よ。これがその手紙ね。ここに受取のサインを貰える?」
俺たちは手紙を受け取ると、宿に戻った。
「それでは読みますね。」
アンは神妙な面持ちで手紙を読み始める。
アンへ
改革派の間で不審な動きがあります。おそらく、2~3日の内にクーデターが起こるとでしょう。彼らの標的は大神官様と転移者です。貴方には転移者の警護をお願いします。騒ぎが治まるまで、王都を離れ、隠れておいてください。 リリア
「千波矢さん。大変なことになってます。どうしましょう。」
アンはかなり慌てている。
「落ち着け。改革派って何なんだ?」
「えっとですね。教会は神の声を聴き、神の御意思を実現するのが本来の役目です。そのために教義が存在し、神官がいるとされています。
改革派は教義を第一に考えます。教義により人民を導くのが役目だと。そのために、神官がいて、神託を受けるのだと。」
「なるほど、つまり改革派は人が神に成り代わろうとしているのか。」
「・・・そうですね。そうも言えなくもないですね。」
「なあ、アン。【神託】のスキルを持った神官は現在何人いるんだ?」
「詳しくは知りませんが、おそらく2~3人だと思います。」
「そんなに少ないのか。」
「はい、何しろランクSのスキルですから。」
「アン、もしかしたらお前も狙われるかもしれないぞ。」
「えっ。」
アンがびっくりする。「なぜ私が」という顔をしている。
「改革派にとって神託は目の上のたんこぶみたいなもんだろ。【神託】のスキル持ちは目障り以外何者でもないだろ。」
「そういわれるとそうですね。千波矢さん、どうしましょう。」
アンは慌てふためいている。まさか自分がターゲットになるなどとは夢にも思っていなかったんだろう。
「教会には武力による実働部隊みたいなのはあるのか?」
「聖堂騎士団のことですか。大丈夫ですよ。彼らは正義の騎士団です。悪いことはしないです。」
アンは自信満々に答えるが、安心はできない。クーデターが成功すれば、改革派が正義で俺たちが悪になるのだ。後は、個人的に強い人物や表にはでない部隊の存在を考えていた方だいいだろう。
「なんか雲行きが怪しくなってきたな。」
俺は嫌な予感がしてならなかった。