20 心をへし折られる
「なあ、D。オオトカゲについて教えてくれ。」
「・・・オオトカゲは全長1メートルぐらいのトカゲです。防御力があり、特に打撃に対する耐性が高いです。攻撃力は低く、攻撃方法は噛みつきがメインです。」
打撃耐性があるのか。俺の攻撃は通じるのだろうか。
「大丈夫ですよ。オオトカゲなら討伐経験があります。あれなら、私一人でも楽勝ですよ。」
アンは頼もしいことを言っていたが、男の俺としては女性に戦いを任せて、自分は戦わないというのは複雑な気分だ。武器を買っておけば良かった。・・・後悔先に立たず、というやつか。
アンはとても張り切っている。俺はだんだん不安になってきた。
砂地に着くとすぐにオオトカゲを発見した。俺は離れていた一匹に棒を力いっぱい振り下ろす。手にすごい衝撃が走る。オオトカゲは怒って俺いに向かってくる。「ヤバイ」と思った瞬間、アンが大剣を振り下ろし、一撃で仕留める。・・・オオトカゲ討伐に俺は必要ないな。
話し合いの結果、オオトカゲ討伐はアンが担当し、俺は薬草採取をすることになった。Dによると、この辺りにもライム草やリール草は生えているそうだ。俺としては不本意だったが、俺はオオトカゲ討伐には全く役に立たないのでしかたない。
2時間後、俺たちは一時休憩して昼食を食べていた。アンは美味しそうにサンドイッチを食べている。
「千波矢さん。このサンドイッチ美味しいですね。」
「そうだな。宿屋の主人に作ってもらって良かったな。」
「そうですね。」
「ところで、だいぶオオトカゲを狩ったよね。疲れてない?」
「いえ、全然大丈夫ですよ。まだたったの12匹ですよ。まだまだいけますよ。」
もう12匹!5匹で1500ゴールドだから、すでに3000ゴールドか。昨日の俺を超えている。頼む。どうかもうやめてくれ。
俺の祈りは空しく、昼食後にオオトカゲの乱獲は続いた。アンがさらに8匹のオオトカゲを倒してから、街に戻ることになった。
ギルドでギルドカードと採取した薬草を提出する。それを見た受付嬢が興奮する。
「大量ですね。オオトカゲ20匹ですか。ついでにライム草が30本とリール草20本ですね。」
薬草はついでになっている。俺、がんばったんだが・・・。
「頑張りました。」
アンは自信満々に言う。
「そうですか。アンさんは何匹倒したんですか。」
「えっ。20匹全部私ですよ。」
さも当然のようにアンは言う。受付嬢は驚いて俺の方を向く。俺は苦笑いを浮かべながら頷く。
受付嬢がダメ男を見るような目で俺を見ている気がする。
「アンさん、すごいですね。で、千波矢さんが薬草採取ですか。」
「はい」
俺は力なく答える。後ろから「それでも男か。」「もっと頑張れよ。だらしないぞ」「ヒモか。」など冷やかしの声が聞こえる。ヒモは言い過ぎだろ。
アンが後ろを振り向くとその声は一斉に止んだ。
「千波矢さん。気にしないでください。危険なときは私が守りますから。」
アンは使命感に燃えてそう言ってくれるが、その言葉は俺の心をへし折った。
どうせ俺は・・・弱いですよ。
「それでは精算しますね。全部で7000ゴールドですね。」
受付嬢は慌てて精算を済ませる。俺が負のオーラを出しまくっているのに気づいたのだろう。俺を哀れみの目で見ている。
どうか俺をそんな目で見ないでくれ。




