193 御前試合1
次の日、俺たちは王宮に呼ばれていた。リオンさんの報告を受けたクリス王子が自らの目でギルの実力を知りたいと言い出し、急遽、御前試合が開かれることになったのだ。ラインハットは王宮には行きたくなかったらしく、街で観光すると出かけて行った。もちろんアシアナもラインハットについて行った。俺もできれば遠慮したかったが、クリス王子から直々のお声かけがあったらしく、辞退はできなかった。俺の正体を知らなかったリオンさんはとてもびっくりしていた。
「千波矢、どうしよう。気分が悪くなってきた。」
ギルは控室で顔を青くしている。
「ふざけるなよ。俺なんか関係ないのに参加させられているんだぞ。」
そう、本日は4試合が組まれていた。
1試合目は俺。
2試合目はアン。
3試合目はギル。
4試合目はシルビアさん。
対戦相手はちょうどいい相手を選んでくれるそうだが、なぜ俺もなんだ。
1試合目。俺の相手は近衛兵の新兵だった。結果はもちろん惨敗だった。御前試合は武器のみの使用が許される。当然、俺がいつも使用している薬類の使用はできない。少し頑張ってみたが、本職には到底及ぶはずがなかった。
2試合目。アンの相手は聖堂騎士団の団長だった。なぜ、教会の関係者がここにいるのかは謎だ。一つだけ確かなのは、王子は俺たちを勝たせる気がないということだろう。どう考えても相手の方が強い気がする。意外にも、最初は互角の勝負を繰り広げていた。俺は驚いていたが、隣にいたギルはすぐにアンの負けを予想した。どうやら、ギルからすると実力差が分かるようだ。ギルの予想通り、だんだんアンが劣勢になっていき、ついにはアンは降参をしてしまった。
「お疲れ。惜しかったな。」
俺の言葉にアンは首を横に振った。どうやら本人も実力差を感じていたようだ。どうやら分からなかったのは俺だけらしい。
3試合目。ギルの対戦相手はギルの父親、リオンさんだった。ギルによるとかなりの実力で、剣だけなら王国でも5本の指に入るそうだ。ギルの顔が青くなるのも頷ける。ギル、がんばれ。
試合開始の合図とともに両者が打ち合い始めた。俺の目から見てもギルの上達ぶりが見て取れた。何がと言われると困るが、明らかに何かが違う。
「ほう、偉く剣筋が荒くなったな。その分、力強さなどは格段に上がったな。」
リオンさんはギルと戦いながらも軽口を叩いている。まだまだ、余裕があるようだ。ギルは真剣な表情だ。ものすごい集中力だ。さきほど、青くなって狼狽えていた人物と同人物には見えない。
「ふごっ」
ギルの蹴りによってリオンさんが後ろに吹っ飛んだ。騎士にあるまじき野蛮な戦い方だ。どちらかというと、傭兵に近い戦い方だ。横でシルビアさんが頷いている。教えたのはシルビアさんか。だが、戦いはギルに傾き始めた。・・・たぶん。リオンさんも真剣な表情だ。この勝負、俺にはどちらが勝つか予想するのは無理だ。実力が違い過ぎる。
ほぼ互角で推移していた勝負だったが、終わりは突然やってきた。ギルの僅かな隙をついてリオンさんが必殺の一撃を放ってきたのだ。誰もがリオンさんの勝ちを確信した瞬間、ギルの体が予想外の動きを見せた。必殺の一撃と思われたリオンさんの一撃を見事に弾き飛ばしたのだった。リオンさんは信じられないといった顔をしていた。ギルの勝利だ。




