189 ギル帰還
「えっ?もう害虫退治終わったんですか。こっちはやっと今日、ギルド長と会うとこなのに。」
俺たちは教会に来ていた。リリアさんに依頼完了の報告をするためだ。その時に返って来た返事はこれだった。俺の方は3日で終わったが、リリアさんの方はまだまだこれからのようだ。まさか、さぼっていたわけではないよな。俺が白い目で見ていると、リリアさんは慌てて弁明してきた。
「しかたなかったのよ。ギルド長が出かけてて、今日やっと帰って来たのよ。別にさぼっていた訳じゃないのよ。」
「いえ、別に責めていませんから。」
「良かった。それにしてもえらく早かったわね。どうやったの?」
「ええ、リンカーンでも蟻が大量発生するので、殺虫剤っていう対虫用のアイテムを開発していたんで、試しに使ってみました。」
「そんなものまで作ってたの。」
「ええ、元居た世界ではモンスター用ではないですが、同じものがあったので作れるかな、と思って。」
「へえ、そうなんだ。その話を管理者のリットンさんにした?」
「ええ、泣いて喜んでましたよ。」
「でしょうね。彼は毎年、この時期は大変だったのよ。ところで、ギルさんはいつ頃王都に帰ってくるの?」
「そうですね。返事があったのが王都に着いた日なんで、アンデッド島との距離を考えるともう何日かかかるんじゃないですか?」
「そうよね。徒歩だと2週間ってとこかしら。」
「じゃあ、あと10日ぐらいですね。」
「わかったわ。それまでにはギルドを説得して見せるから。それじゃあ、もうすぐギルド長と会う時間だから行ってくるわね。」
リリアさんがそう言って席を立とうとした時、若い神官がリリアさんのところにやってきた。
「失礼します。リリア様。ギルという騎士とお連れの方が面会を求めていますが、いかがしましょうか。」
「えっ。ギルさんですか?」
「はい、元近衛騎士でアンさんと千波矢の友人と言えば分かる、と言われておりましたが、いかがいたしましょうか。」
「ええ、問題ないわ。知り合いよ。お連れして。」
「失礼します。リリア様、ギル様をお連れいたしました。」
先ほどの若い神官が連れてきたのはやはりギルとシルビアさんだった。ギルはえらく疲れているように見える。
ギルは部屋に入るなり俺たちと目が合う。
「あれ、千波矢。なんでここにいるの?」
「いや、それはこっちのセリフだ。えらく早く王都に着いたな。」
「ああ、それはあの人の所為だ。」
ギルはそう言ってシルビアさんを指差す。シルビアさんは変わらずにこやかとしている。俺は軽く会釈する。転移魔法か?だが、シルビアさんは剣士だったはずだ。どういうことだ?
「修行だとか言って、ブレイブルクから休まず走って来たんだ。」
ギルの言葉にここにいる全員が絶句した。ブレイブルクから走ってきた?しかも、休まずに。よく見るとシルビアさんは当然だという顔をしている。鬼教官だ。鬼教官がここにいる。




