185 神々とは
「えっとね。5年前の神託時、リリアのお母さんが僕に質問をしてきたんだ。悪いけど、質問の内容は言えないから。その対価として、彼女は名前とスキル【神託】を差し出したんだ。」
「名前を差し出す?」
「そうだよ。だから、彼女の名前の権利をまだ僕はもってるんだ。スキル【神託】も持ってるから、リリアに上げてもいいよ。」
「私としては名前の方を返してほしいんですが。」
「それもできるけど、しない方がいいよ。お母さんは名前が無くなったことで、現在、自由に行動できてるからね。ここで名前を解放すると、お母さんに迷惑かけるかもしれないよ。」
「それはダメです。・・・名前は諦めます。」
「まあ、お母さんに会ったら、新しい名前を聞くことはできるから。」
「わかりました。ところで、母は今、何をしているんですか?」
「だから、それは言えないって。」
「言える範囲で構わないので、教えてください。母は、教義をすてたのでしょうか。」
「うーん。少しでも言っちゃうと決まりを破ることになるもんな。やっぱり無理だね。」
ラインハットの言葉にリリアさんはうなだれる。余程、お母さんが心配なのだろう。
「ところでさあ、気になったんだけど教義って何。」
ラインハットが不思議そうに聞いてきた。
「もちろん教義とはもちろん神から賜った有難い守るべき言葉です。」
リリアが当然のように答える。俺の横でアンも当然と頷いている。
「へえ、そんなのがあるんだ。」
ラインハットは尚、不思議そうにしていたが、あることに気づいて「しまった」といった顔をする。
「ラインハットさん、どういうことなんですか。」
アンがラインハットに問いかけた。ラインハットは二人の真剣な表情を見て、ため息をつく。
「やっぱり、気になるよね。おそらく、君たちが教義と呼んでいるものは昔、誰かが神託で伝えた言葉だと思うんだけど、それ、ノエル様の言葉じゃないから。たぶん、ノエル様以外の神が個人的に言った言葉だと思うよ。だから、その教義って神々の総意ではないよ。そもそも、僕達神々の中で君たちヒト族を導こうとしている神はほんの一部なんだよ。」
「そ、そうなんですか。」
「そうだよ。ここ数百年では、光の神リンガル様だけだよ。ヒトの支配に深くかかわっているのは。」
ラインハットの言葉にアンとリリアがひどく動揺している。以前、アンが言っていた。教会の使命は【神託】により神の言葉を聞き、人々に伝えることだと。ラインハットの言葉によると教会の存在意義が根本から崩れそうだ。ラインハットは二人を心配そうに見ている。
「それでは、他の神々からの神託は偽りということでしょうか。」
リリアさんが消え入るような声で聞いてくる。
「偽りっていうか、それぞれが勝手に言っているだけなんだよ。そもそも、ヒトの神に対する認識と僕達神の自分たちに対する認識は全く違うんだよ。」
「どういうことですか。」
「君たちが神と考えている、天地を創造し生命を作ったのはたった2名なんだよ。だから僕を含めて、他の神はヒトよりも力の強い存在ってだけなんだよ。」




