181 アシアナの先祖
その後何事もなく王都に着くことができた。いや、何事もなかったことはないな。俺とアンは馬車の中でおしどり夫婦としてもてはやされた。結構恥ずかしかった。俺の精神がかなり削られた。バカップルのラインハットとアシアナは全然イチャついていなかった。アシアナがギルドで購入した罠についての本をずっと読んでいたからだ。よく酔わなかったな。
「千波矢君、イーグル君が帰って来たよ。」
ラインハットはそういうとイーグル君の足に結んあった手紙をほどき、読んでいる。
「良かった。ギル君来てくれるって。ただ、シルビアさんも一緒に来るって。僕、あの人苦手なんだよなあ。」
「ラインハットはシルビアさんを知ってるのか?」
「当然だよ。アベル君の仲間の一人だからね。」
「アベル君?勇者のことか。」
「うん、そうだよ。ちなみにアシアナちゃんの御先祖様も勇者の仲間だったんだよ。確か、4英雄って称えられてたはずだよ。聞いてない?」
「へえ、そうなんですか。知りませんでした。」
アシアナはばつが悪そうに答える。
「そっか。周りの大人が教えなかったのか。」
「???」
「彼は魔王討伐後、すぐに死んじゃうんだ。彼には小さな子供が一人いたんだ。哀れに思ったバッカスが加護を与えて、部族に大切に育てるように命じたんだ。」
「でも、魔王を倒した英雄なら村を挙げて大切に育てませんか?」
アシアナは不思議そうに尋ねる。
「えっとね。彼は人間には英雄と讃えられていたけど、ドワーフ族には変人として蔑まされていたんだ。」
ラインハットは言いにくそうだ。
「蔑まされていた?」
「彼ね。信仰心が強くてね。神官になったんだ。当時はまだ理解がなくてね。」
今でも神官になるドワーフはほとんどいない。ドワーフは大地信仰だからだそうだ。
「なあ、ラインハット。そのヒトってルーシャンのことだろ。」
俺の言葉にラインハットは驚く。
「あれ。千波矢君、よく知ってるね。」
「ああ、アンデッド島に墓があったんだ。」
「お墓ですか。」
「ああ、なんでも魔王討伐後に魔王軍の残党と戦って、そこで戦死したらしいんだ。」
俺はそこでハッとした。アシアナからしたら、ご先祖がアンデッドとして1000年生きていたとは聞きたくないかもしれない、と思ったからだ。しかも、そのアンデッドを退治したのはギルなのだ。言わないほうがいいな。アンも同じことを考えたようだ。アンはいそいで話題を変えた。
「それでギルさん達はいつ頃こちらに着きそうですか?」
「ああ、えっとね。手紙には2週間後って書いてあるね。」
2週間?アンデッド島から王都までかなりの距離があった気がするんだが、2週間で来れるのか?まあいいか。待ってる間に俺たちは迷宮に入る許可を貰っておくか。




