177 異分子
アシアナがリンカーンに暮らし始めて2週間が経つ。彼女はすぐに町に打ち解けていた。流石に店の一室に二人で暮らすのは狭かったみたいで、現在は家を借りて暮らしている。
アンと仲良くなった彼女は、アンの紹介でマーサさんの食堂で働いている。ラインハットは未だに俺の店で働いている。それなりの給料を支払ってはいるが、ラインハットならもっと稼げる職に就くこともできるはずである。辞めるかな、と思ったら辞めなかった。理由を聞くととてもシンプルな答えだった。
「他の仕事は無理だよ。神じゃなくなっても亜神だから、いつリンガル様から任務の依頼があるか分からないしね。千波矢君なら理解があるからいきなり辞めても大丈夫でしょう。」
「いや、理解はあるが、いきなり辞めるのは止めてくれよ。できるだけ、便宜は図るから。」
「うん、わかったよ。そうだ。一つ話しておくことがあったんだ。」
「なんだ?」
「僕が今、リンガル様に与えられている任務についてだよ。」
いきなり話題がシリアスになった。っていうか、それは秘密にしてなくていいのか?
「心配しなくて大丈夫だよ。千波矢君にしゃべるのは問題ないよ。君にも関係してくる話だし。」
「・・・まだ、心が読めるのか?」
「ううん。もう読めないよ。でも、千波矢君は考えが顔に出やすいから何となくわかるんだよ。」
「マジで・・・。」
そういえば、前にアンにも言われた気がするな。気を付けよう。
「それでね。任務なんだけど、この世界の異分子の監視だよ。」
「異分子?」
「そう。この世界はね。基本的には大神ノエル様が定めたとおりに物事が進むんだ。これを予定調和っていうんだ。ところが、その予定調和を乱すものがいるんだ。それを異分子って呼んでいるんだ。」
「異分子か。なんかすごい存在だな。」
「何言ってんの?千波矢君、君も異分子の一人だよ。」
「えっ!」
「この世界に転移させる前に説明したでしょう。【神の悪戯】は本人に予期せぬ結果をもたらすって。これは、神の予定調和を乱す力だよ。」
「じゃあ、お前の監視対象って。」
「そう、一人は君だよ。僕は現在5人の異分子を監視しているんだ。いや今は7人か。」
「7人?」
「そう、まずは君。そしてアンちゃん。そしてエルフのエクセス。君にはフミヤって言った方が分かりやすいかな。後は、これから異分子になる予定のギル君。」
「ギルもか!」
「そうだよ。勇者の力は異分子として認定されているんだ。後は魔王。これが下界に降りて来たときに言われた監視対象だよ。」
最後にぶっ飛んだ名前が出てきた。魔王が監視対象なんだ。・・・監視対象?
「もしかして、魔王ってもう復活していたりするのか?」
「そうだよ。だから僕が地上に派遣されたんだよ。」
「それであとの二人はもしかして・・・」
「そうだよ。アシアナちゃんとルーベンさんだよ。」
やっぱりそうだった。途中からそうではないかと思っていた。
「異分子って、神の加護をもっているヒトのことなんだな。」
「そうだよ。神の定めた道筋を変えることができるのは神の力だけだってことだよ。まあ、ヒトだけじゃないけどね。」
ラインハットの口から語られた内容は衝撃の事実だった。




