173 バッカスの眷属
「えっ、アシアナちゃん。いつから聞いてたの。」
「『だ、か、ら、』辺りからです。それより結婚してくれるっと本当ですか。」
アシアナは真剣に聞き返している。ん?「だ、か、ら、」辺りだったら神の世界がどうのこうのってところも聞いているはずだよな。訳アリなのも覚悟の上ってことか?
「・・・僕と結婚すると苦労するのに。」
ラインハットが小さな声でボッソっと呟く。
「構わないです。そんなこと。」
アシアナはグイグイいっている。これはラインハットが落ちるのも時間の問題だな。
「でも、」
「大丈夫です。どんな試練でも私は耐えて見せます。ラインハット様はご存知ですよね。我が家がバッカス様の眷属の家系だと。」
・・・ん?バッカス様の眷属の家系?アシアナの口から聞きなれない言葉が出てきた。
「ラインハット、どういうことだ?」
俺がラインハットに問いただす。
「えっ。言ってなかったっけ?彼女の家系は代々酒の神バッカスの祝福を受けているんだ。」
「もしかして、アシアナはお前の事知ってるのか?」
「僕が神だってこと。知ってるよ。初めて会ったときに聞かれたから。」
知らないのかと思っていた。それなら何の問題もないんじゃないか?本人はどんな試練も耐えるって言ってるんだし。
「ということは、アシアナも加護持ちなのか?」
俺がアシアナの方を見ると彼女は首を横に振る。
「バッカス様の加護を持ってるのは父さんよ。まだ継承はしてないわ。それよりアシアナもってどういうこと?」
アシアナは意外に賢かった。俺はラインハットの方を向くと「話せば」って顔で頷く。
「俺も加護持ちだ。アルカディアって神様の。」
「アルカディア様?」
「ああ、ヒト前にはあまり出ないから知らないかもね。時の神で、リンガル様の弟だよ。」
ラインハットが補足する。へえ、アルカディアって時の神だったんだ。
「リンガル様の弟ってことは上級神じゃない。」
「そうだね。千波矢君は上級神の眷属だから地上に派遣されてる下級神の僕と神格はほぼ同格になるね。」
ラインハットはいつもの調子である。それを聞いたアシアナの俺を見る目が少し変った気がする。
「で、ラインハット。どうするんだ。」
「あー、えっとね。」
まだ、覚悟が決まってないのかっと思ったら、そうではなかった。
「結婚するには・・・まず、直属の上司のリンガル様のお許しがいるかな。後は、たぶん何らかの試練を課されると思うよ。それと、バッカスにも断りは入れた方がいいだろうね。アシアナは眷属ではないといっても、次期眷属候補だし。」
その言葉を聞いた瞬間、アシアナが笑顔になる。それにしても、なんだか面倒そうだな。




