159 ラインハット
凄まじい威力の魔法だった。極大呪文と言うだけのことがある。巨大な土埃が舞っている。それだけ呪文の威力が大きかったことが伺える。
「「「うおおおお。」」」
冒険者たちの歓声が聞こえる。あの威力の呪文の直撃を受けたのだ。いかにドラゴンとて生きてるはずがない。土埃が治まると黒焦げになったドラゴンが姿を現した。そしてその向こう側に例の魔術師が立っていた。ウォーロッドさんが魔術師の元に駆け寄ろうとした時、魔術師がそれを制した。
「ストーップ。ドラゴンに近づかないでくださーい。」
なんとも緊張感のない声だった。ウォーロッドさんが呆気に取られて立ち止まると、突然目の前のドラゴンが起き上がった。ウォーロッドさんは驚き、しりもちをついて右往左往している。このままでは危ないと助けに行こうと飛び出そうとしたものもいたが、その必要はなかった。さすがにダメージが大きかったのか、ドラゴンはウォーロッドさんに襲い掛かることなく飛び去って行った。
「いやー、一人で神龍と戦うのは大変だったんで助かりました。」
魔術師の声は相変わらず緊張感がない。ドラゴンが逃げたあと、こちらにやってきた魔術師はウォーロッドさんと話し始めた。それにしても、この人、どこかで会ったことがあるような気がする・・・。右手に杖、全身を古ぼけたローブ。まさに魔術師といった服装だが何か違和感がある。髪は七三に分けて、ワックスで固めたかのようにガチガチだ。
ん。ワックス?
この世界にワックスなんてあるのか。使っている奴を始めてみたぞ。そういえば、このサラリーマン風の髪型、どこかで見たような・・・。思い出せない。
俺が誰かを思い出そうとしていると、俺を探してアンがやってきた。
「千波矢さん。無事ですか。」
「ああ、俺は大丈夫だ。アンは大丈夫だった?」
「はい、私も大丈夫です。ところで、先ほどの魔法、すごかったですね。」
「ああ、あそこにいる魔術師が使ったんだ。」
俺が魔術師を指差す。魔術師を見たアンも首を傾げている。そしてポツリと呟く。
「あの声・・・。ラインハット様?」
ラインハット!そうだ、リンガル様の部下の神様だ。彼がラインハットさんならあの魔法の威力も納得だ。神様だもんな。俺が納得していると、ラインハットが急に辺りをキョロキョロ見回して、俺に気づいて飛んできた。
「もしかして、千波矢君?」
ラインハットが恐る恐る尋ねてくる。
「はい、お久しぶりです。」
俺がそう答えると、ラインハットはガクリと膝をついた。顔は真っ青になっている。
「隠密行動だったのにバレてしまった。」
隠密行動?あれだけ派手に魔法を唱えておいて?ラインハットさんは相変わらずだった。




