153 ギルの修業5
奥義の修業は文字通り、死と隣り合わせのものだった。シルビアさんが「死なないでください。」といった理由がよく分かる。修業の内容はとても単純なものだった。シルビアさんが奥義の手本を一度見せ、それを俺が使ってみる、というものだった。しかも、実戦の中で。一歩間違えば死の危険があるため、未完成の技を使うのは気が引ける。特に奥義のような威力のある技は失敗すると隙を作るため、非常に危険をともなう。シルビアさん曰く、「覚えるには実戦が一番です。実戦で使えない技は無用の長物です。」とのことだった。そして、アンデッドの狩場もついには城の中となっていた。そう、このアンデッド島で最も危険な場所だ。勇者アベルは城の地下に封印されているので地下には近づかない様に注意された。
奥義はどれも難易度の高い技だった。すでに1ヶ月以上試しているが、なんとか形になったのは「玄武」だけだった。「朱雀」に至っては完成の糸口さえ見出すことができていない。シルビアさんによると相性があり、奥義修得挑戦者のなかですべての奥義を修めた人はあまりいないそうだ。そして俺は「可能性はあるかもしれませんが、厳しいと思います」だそうだ。
今日も奥義の習得はできなかった。俺は小屋に戻って休んでいると、シルビアさんが深刻そうな表情でやってきた。
「ギルさん。どうやら時間が来たようです。私達の調査によると間もなく魔王が復活します。明日、アベルに会いにいきましょう。」
「シルビアさん。まもなく魔王が復活するっては本当なんですか?」
「ええ。旧魔王城にいる仲間が復活の兆しを見つけたの。」
旧魔王城。それは1000年前の魔王の居城だ。王国のはずれにあり、その周囲はランクSの魔物が徘徊する危険地帯である。シルビアさんの仲間はそんなところを調査したのか?
それにしても、俺は勇者になれるのだろうか?シルビアさんは資質はあると言っていたが、なれると確約があるわけではない。
「シルビアさん。今の俺で勇者になることは可能でしょうか?」
「おそらく大丈夫だと、としか言いようがありません。申し訳ないですが、勇者の力の継承のシステムはまだ完全には解明されていないんです。」
シルビアさんは申し訳なさそうに答える。
「わかりました。それでは明日、朝一番でいきましょう。」
俺はそういうとシルビアさんは少し安堵の表情を浮かべた。ついに、勇者アベルとの御対面が決まった。どうやら、明日は俺にとって運命の一日になりそうだ。




