140 不動産屋
俺とアンはマーサさんの紹介で不動産屋に来ていた。マーサさんの紹介なので年配の人を予想していたが、出てきたのは若い男だった。
「ほう、薬屋を開きたいので家がほしいのか。」
何とも態度の悪い男だった。どうも若い俺達二人を馬鹿にしているようだ。
「はい。販売スペースと調剤スペース、あとは倉庫部屋が必要ですが。」
「そうだな。それだと最低でも800000ゴールドぐらいは必要だな。用意できるのか?」
「800000ゴールドですか。それはちょっときついですね。それでは借りることはできますか?」
「賃貸?薬屋だと貸してくれる人なんかいるかよ・・・。何か担保とかあるのか?」
「担保ですか。」
やっぱり薬屋の評価は低いらしく、担保がないと賃貸すらできないようだ。それにしても、この不動産屋、本当に態度が悪い。
「あの・・・。この指輪は担保にできないですか。」
隣で黙って座っていたアンが提案してきた。アンが言っている指輪とはもちろん俺がアンにプレゼントした婚約指輪の事だ。
「アン、その指輪は」
「大丈夫です。千波矢さんならお店がつぶれることはないです。」
俺は止めようとしたが、アンは覚悟をしていたようで、
「ちょっと見せくれ?」
アンは黙って指輪を渡す。不動産屋はその指輪を見るとため息をついた。
「どうやら宝石じゃないな。この程度の指輪じゃ、担保にならないな。」
不動産屋は鼻で笑うと指輪を投げて返した。アンは慌てて拾って指輪に傷がついてないかを確認している。俺はマーサさんの紹介というとこで我慢してきたが、我慢の限界だった。
「おい、貴様。その態度はなんだ。」
俺が怒鳴ると男は腰を抜かし、狼狽しつつも悪態をついてきた。
「真実を言われて怒るなんて、これだから貧乏人は。」
「アン、帰るぞ。この男は見る目もなければ、信頼することもできない男だ。これ以上話すことはない。」
俺はそういうとアンを連れて帰ろうとする。
「ふざけるな!誰の見る目がないって。」
男は腰を抜かしたままで噛みついてきた。うん。小物だ。
「この指輪は確かに宝石ではないが使われているのは幸運の石だぞ。ファニー宝飾店で作ったオーダー品だ。価格は500000ゴールドだぞ。」
俺がそういうと男の顔色が変わった。幸運の石について思い出したようだ。俺たちが店を出る時、後ろの方で何か言っていたが、俺は気にも留めなかった。




