14 寝るところがない
アンはかなり怒っていた。歩きながら愚痴を言い続けた。
「ほんと、失礼な男だったんですよ。」
「大変だったみたいだね。」
「そうですよ。いきなり『お酒を飲もう』とか言って抱きついてきたんですよ。」
「あっ、それはアウトだ。」
「ですよね。それでビックリして殴り倒したんです。」
殴り倒した?素手で?
「あのアンさん。その大剣で殴ったんですよね。」
アンはキョトンとしている。
「まさか、あんなところで武器なんて使いませんよ。素手にきまってるじゃないですか。」
アンはニッコリ笑いながら言う。
俺は全身から嫌な汗が出るのを感じる。アンの笑顔が逆に怖く感じる。
「ん?どうしたんですか、千波矢さん。」
「いえ、何でもないです。」
「顔色が悪いですけど、大丈夫ですか?」
俺が平常心を取り戻すにはもうしばらく時間が掛かった。
「そうだ、今日の夜どうするの?」
「何がですか?」
どうやらアンは気づいてないようだ。
「アンは今までは何処に住んでたの?」
「教会です。・・・どうしましょう。今晩、寝るところがないです。
千波矢さんはどうするんですか?」
どうやら気づいたようだ。もうすぐ夜になる。
「俺は今から仕事に行って金稼ぎかな。」
「今から仕事ですか。」
「ああ、さっきギルドで依頼を受けてきたんだ。」
そういって依頼書を見せる。俺は実技試験後にちょうど良い依頼を見つけておいた。
依頼 人員募集1人(緊急)
仕事内容
今日から3日、夜の食堂の業務
1日500ゴールド
「なんですか。この依頼?」
「何って、短期の求人公募だろ。」
「冒険者ってこんな仕事もするんですね。」
「みたいだな。俺も見た時びっくりしたわ。まあ、これで俺は宿に泊まれる。」
「あの・・・。私も一緒にとかできますかね?」
アンが顔を真っ赤にして聞いてくる。
「いいけど、仕事が終わってから宿に行くから遅くなるぞ。」
「大丈夫です。」
仕事先は宿屋一階の食堂だった。ちょうど良かったので事情を説明すると仕事の給料で食事なし2人部屋に泊まれることになった。
「あのいいんですか。私も働かなくて。」
アンはそう言っていたが、求人1名なので先に部屋に休むように言った。
さあ、バイトの時間だ。俺の通っていた高校はバイト可だったので、ファミレスでバイトをしていたことがある。流石に居酒屋はダメだったが。ここでの仕事は似たようなものだろう。
「いやー、急だったんで冒険者ギルドに依頼を出したんだけど、いい人が来てよかったよ。若いのにすごいね。スキル持ちかい?」
「いいえ。過去に経験があるだけです。」
「すごいね。この前辞めた奴の倍は働けてるよ。そうだ、サービスだ。明日の朝食はおごろう。部屋にいる娘も一緒にね。」
「いいんですか。」
「ああ、いい働きぶりだったからね。」
俺は主人に礼を言うと、部屋に戻った。




