137 証拠
「本日はお買い上げありがとうございました。」
セリナさんがそう言い、店の扉を開けると・・・、そこにアンが立っていた。
なぜ、アンがここにいるのか。俺は意味がわからず混乱していた。
「アン、何でここにいるんだ?」
俺の口からこぼれ落ちた言葉により、アンは確信した。俺が浮気をしていると。そして、キッとセリナさんの方を睨みつける。アンの雰囲気が変わった。
「あなたが千波矢さんの浮気相手ですか。」
アンは殺気を放っている。まさにここは修羅場とかそうとしていた。
「違うわよ、アンちゃん。」
セリナさんが誤解を解こうとした時、アンがその言葉に反応した。
「アンちゃん?・・・嘘、もしかしてセリナさん!」
アンは俺の隣にいるのがセリナさんであることに気づいた。そう、昔遊んでくれた優しいお姉さんであることに。その瞬間、彼女は膝から崩れ落ちると、大声で泣き始めた。
俺はどうしていいかわからず立ち尽くしていた。セリナさんも右往左往している。
「お嬢さん、とりあえず中にどうぞ。」
騒ぎを聞きつけてマチルダさんがやってきて、半分無理やりにアンを店内に連れて行く。そして、セリナさんに何か目配せをするとそれを理解したセリナさんが店の入り口に「close」の看板を出し、店の鍵をしめてしまった。
しばらくして、アンは落ち着きを取り戻し泣き止んだが、疑いは解けていなかった。俺たちを睨み続けている。俺とセリナさんは一生懸命誤解を解こうとしたが、アンは信じてくれなかった。
「千波矢さん。こうなると秘密をお話しするしかないですね。」
マチルダさんがそういうとアンの顔色が変わる。それを気にせずマチルダさんは続ける。
「あなたの口から言ってもなかなか信じてもらえないでしょうから、私が説明しましょうか?」
俺には他にいい案がなかったため、マチルダさんに任せることにした。
「初めまして。私、宝飾店ファニーの支配人、マチルダといいます。」
「アンです。」
マチルダさんの挨拶にアンは短く答えた。すごく警戒しているようだ。
「やはりあなたがアンさんでしたか。聞いていた情報通りの女性です。この度、私どもは千波矢さんの依頼により指輪を1つ頼まれました。送る相手はもちろん、あなたです。」
マチルダさんの言葉にアンは首を横に振って否定した。今のアンには何を言っても信じてもらえそうにない。
「困りましたね。仕方ないです。千波矢さん、指輪をアンさんに渡してください。」
「えっ。今、アンに渡しても」
「いいからお願いします。」
今、アンに指輪を渡しても誤解を解くことは無理な気がするが、マチルダさんの強い口調に負けて、俺は指輪をケースから取り出し、アンに渡す。アンは嫌そうにそれを受け取る。・・・何か散々な指輪の渡し方になったな。
「アンさん、その指輪はあなたのために作られた指輪です。千波矢さんやセリナに聞いた情報を元にあなたに最も似合うように作った私の自信作です。指輪の内側を見てください。そこに証拠があります。」
マチルダさんはそう言うとセリナさんを連れて部屋を出て行ってします。一体何があるのだろうか。アンは嫌々そうに内側を覗いて、また泣き出した。
「アン?」
俺が慌てて駆け寄るとアンが俺に抱きついてきた。
「千波矢さん、疑ってごめんなさい。」
アンは大粒の涙を浮かべなから謝ってきた。




