124 試された
ランバードの襲撃以降、特に問題は発生しなかった。夜、野営の準備をしていると、俺はジョージさんに呼ばれた。
「すまないね。急に呼んだりして。」
「いえ、何か問題でもありましたか?」
「いや、護衛任務の話ではなくて、君が昼間に使っていたアイテムについて聞きたくてね。」
「昼間に使っていたアイテム?・・・ああ、麻酔玉ですか。」
「ほお、麻酔玉というのか。」
「ええ、使用すると煙状の麻酔薬が出てきて、モンスターを痺れさせるアイテムです。」
「あれも君が作ったのかい?」
「はい、そうですが。」
「良かったらいくつか売ってもらえんかね。」
俺は少し迷っていた。実は麻酔玉は思った以上に効果のあるアイテムだったからだ。このアイテムを密室で使ったら中にいる人は全員痺れる可能性があるからだ。・・・犯罪者に渡ったらと思うと、誰にでも売れる商品ではないと思ったからだ。
「すみません。麻酔玉は他の方に譲ることは今のところ考えて降りませんので。」
俺はそう答えるとジョージさんの表情が少し険しくなった。
「金ならいくらでも出そう。1個10000ゴールドでいいか?」
「いいえ、金銭の問題ではないので。」
「強欲な奴だな。1個15000ゴールドだそう。これ以上は出さんぞ。」
ジョージさんは是が非でも麻酔玉を手に入れたいようだ。ジョージさんの声がいら立ってきている。そのせいか、こちらを威圧してきている。流石、元パリストン商会代表だ。すごい威圧感を発している。
「申し訳ありません、どんなに言われても麻酔玉は今のところ売るつもりはありません。」
しばらく、沈黙が続いたのち、ジョージさんの表情が突然柔らかくなり、笑い出した。
「はっはっはっ。流石冒険者をしているだけあって、なかなかの胆力だな。普通の若造ならコロッと売っていただろうに。」
いきなりの豹変にどう対応していいかわからないでいると、ジョージさんがネタばらしをしてくれた。
「意地悪をしてすまなかった。リナくんに君がお店を開きたがっていると聞いたので君を試してみたんだ。一つ聞きたい。なぜ、売らなかった?」
ジョージさんの顔が真剣な表情になった。どうやらまた試されているようだ。
「麻酔玉の効果が思った以上に効果があったからです。このまま市場に出すと犯罪に使われる可能性が高いからです。」
俺の答えを聞いてジョージさんは満足そうに頷いた。
「うん。私も同じ考えだ。どうやら注意する必要もなかったな。で、改善は出来そうなのか?」
「今のところは無理ですね。効果を弱めても数を使われると意味がないですし、対麻酔玉用の薬を開発した方が良いかもしれないですね。」
「ほう、そんなものができるのか?」
「いえ、あくまで可能性の話です。」
「そうか。開発できることを期待しているぞ。店ができたら是非知らせてくれ。」
ジョージさんはそういうと楽しそうに笑っていた。どうやら、リナさんに言われた人脈を作ることに成功したようだ。




