113 真の原因は失恋だった
「病の原因は運動不足と食べ過ぎです。」
俺の言葉に一瞬沈黙が走ったあと、怒声が響き渡った。
「ふざけるな。衛兵、この無礼者を捕らえろ。」
顔を真っ赤にしてビルが叫んでいる。側にいた衛兵はクラウスさんの方を向くと動かずに直立不動の姿勢を貫いている。どうやらこの場ではクラウスさんの立場が一番上の様だ。実際、クラウスさんがビルを睨むと大人しくなった。どうやら先ほどの言葉が聞いているようだ。
「できれば、もう少し詳しくおねがいします。」
クラウスさんが俺に説明を求めてきた。
「えっとですね。俺のスキルによるとこの世界でまだ知られていないんですが、糖尿病という病気が俺のいた世界にはありまして、・・・」
俺は知っている限りの知識を披露した。もちろん専門的な知識なんて知らないので間違った部分があるかもしれないが、概ねは合っているはずだ。
俺が語った糖尿病の症状とビルの症状があまりにも酷似していたため、ビルを糖尿病として治療をすることになった。
「糖質の制限と適度な運動」。これが俺の知っている糖尿病の治療法だった。インシュリンって薬も日本ではあったようだが、Dによるとこの世界ではないそうだ。そのため、調剤で作ることはもちろんできない。
そのため、かなり厳しい食事メニューとトレーニングが組まれたようだ。クラウスさんがコックと頭をひねって考えていた。俺、というかDにアドバイスを求めてきたときに少し見させてもらったが、・・・地獄の計画が書かれていた。
「それでは千波矢さん。これで2週間ほど様子を見させてもらいます。これでビル様の体調が改善したら、依頼達成とさせていただきます。」
「わかりました。・・・あのあまり無理はさせないで上げてくださいね。それと、もし違っていたらすぐに言ってください。出来る限りのことはしますので。」
俺がそう言うと、「かしこまりました。」と言って、クラウスさんは深々と頭を下げた。
俺はギルドに戻るとリナさんに経過報告を済ませた。
「わかったわ。領主さまから連絡があったらすぐに知らせるわ。連絡先はアンのところでいいのよね。」
「はい。俺もギルドには毎日顔を出すようにはします。ところで、ビルさんはなんであんな生活になったんですかね?」
俺が疑問を口にするとリナさんから衝撃の事実が帰って来た。
「千波矢さん。知らなかったんですか。ビルはアンに告白して振られて家に引きこもってたんですよ。」
「・・・・・・」
「知らなくて依頼を受けたみたいですね。依頼を紹介した時に行った方がよかったですかね。ビルがあなたとアンの仲を知ったら、いろいろとあるかもしれないので、気を付けてくださいね。」
リナさんはそう言っているが、心配しているというよりこれから何が起こるか楽しみにしているかんじだった。




