112 運動不足と食べ過ぎ
「千波矢さん。申し訳ありません。」
急にクラウスさんが謝ってきた。何について誤っているのだろう?
「本来なら、面接で採用を決めてから、治療法を伺うべきところを先に聞いてしまいました。」
あっ。そういうことか。
「いえ、気になさらないでください。俺が先走っていっただけですから。」
「そう言ってもらうと助かります。」
「えっと、面接の結果は合格でいいんですよね。」
「もちろんです。坊ちゃんをよろしくお願いします。」
執事はそういうと深々と頭を下げた。
その後、クラウスさんに連れられて領主様の館に行き、問題の息子にあった。転移前、高校生であった俺はもちろん医学に詳しくなかったが、坊ちゃんを見た瞬間、一つの病名が頭をよぎった。これは確認しなくては。
「はじめまして。冒険者で薬剤師の千波矢と申します。」
「ああ、僕はこの町の領主の息子、ビル・クリケットだ。すまんが、きついので手短に頼むぞ。」
ビルはそういうと従者からコップを受け取り水を飲む。額にはすごく汗をかいている。
「まずは確認したいんですが、いつも熱があり疲れやすいということですが、具体的にどのような感じですか?」
「ああ、見てのとおり、暑くてすぐに汗がでるんだ。それによく喉も渇く。少し動くとすぐに疲れて息が切れるから、最近はベッドで横になっていることが多いな。」
そういうと、また水を飲んでいる。
「クラウスさんによると痛みもあるそうですが、今も痛いですか。」
「痛み?・・・ああ、動くと節々が痛いんだ。で、原因は分かったか?」
ビルは誤魔化すように答える。もしかして、痛みは嘘か?そうなると、俺の予想で間違いないが最後に1つ聞くことがある。
「最後に、申し訳ありませんが、現在の体重と1年ほど前の体重をお聞かせいただいてもよろしいですか?」
その言葉で従者の人の顔色が青くなる。おそらく体重の事はタブーなのだろう。ビルの顔色は真っ赤になっている。
「なぜ、そんなことをお前に言わないといけない。」
ビルは怒鳴ってきた。まあ、仕方ないか。見た感じ、現在の体重は100キロを超えていそうだ。他人に知られたくないのも無理はない。
「ビル様の体重は現在90キロでございます。半年前、倒れられた時は70キロ、1年前の健康なときは58キロでございます。」
クラウスさんは顔色一つ変えず、淡々とビルの秘密を喋っていく。
「クラウス。貴様、主人の秘密をよくも他人にばらしたな。」
ビルがクラウスさんを非難しているが、クラウスさんは表情一つ変えない。
「ビル様。私の雇用主はあなたの御父上です。そして、御父上の御命令は『ビル様の病を治すために手を尽くせ』です。」
そう言われると、ビルは何も言い返せなかった。
それにしても、1年間で30キロ近く増えたんだ・・・。これはおそらく間違いないな。一応、Dに確認を取るか、この部屋にいる全員に向かって言った。
「病の原因は運動不足と食べ過ぎです。」




