10 いざ、王都へ
「すぐに出発の用意をしますので、待っていてください。」
アンはそう言うと、荷物を片付け始めた。その間に俺は焚火の火を消す。それにしても、アンの持っている武器、大剣だよな。アンは1メートル程の長さの剣を背負っている。
「なあ、神官見習いって言ってたよな。この世界では神官は大剣を装備するのか?」
「私が与えられたスキルに【大剣 優】があったからです。」
「へえ、それじゃ、アンは【大剣 優】と【神託】の二つのスキルを授けられたんだ。」
「いえ、【回復魔法 良】の3つです。」
「へえ、3つも貰えたなんてすごいね。」
「いえ、そんなことないです。」
アンはそう言いつつも誇らしげにしている。
「千波矢さん。馬には乗れますか?」
出発の準備が終わったアンが尋ねてきた。アンの隣には一頭の馬がいる。
「いや、今まで乗ったことがない。」
「そうですか。それでは私が馬を御しますので、後ろに乗ってください。
・・・言っておきますが、変なところを触ったら叩き落としますよ。」
「気を付ける。」
俺は初めて馬に乗った。現在、落ちない様に少女にしがみついている。周りから見るとかなり情けない恰好だろう。だが、王都エストブルクまでは100キロある。歩いていく距離じゃない。
馬は颯爽と駆けていく。そして俺は酔った。
「アン。すまん。馬を止めてくれ。休憩しないか。」
王都まであと少しのところ、我慢の限界となった。俺は休憩のため馬を止めてもらう。アンは「情けない」と俺を見ているが、そんなの知ったことではない。乗馬初体験の俺としては仕方のないことだ。
「ところで、この馬はどうしたんだ?」
「教会から追放された後、相談した先輩神官に貸してもらいました。」
一つの疑問が生まれた。
馬は決して安いものではないだろう。追放された、しかも見習いのアンになぜ馬を貸してくれたのだろうか。
だいたい、ラインハットの性格からして今までの神託でも不手際はあったはずだ。それなのに今回の件でいきなり見習いが首になることがあるのだろうか。
・・・いや、いきなり平手が飛んできたアンの性格からするとありえるかな。いままでも不祥事を起こしていた可能性もある。
ただ、もしかしたら今回の件は何か裏があるのかもしれない。それなら、慎重に動いた方がいいか。
アンは・・・気づいていそうにないな。
「アン、王都に着いたらどうするつもりだ?」
「そうですね。大神官様なら分かってくれるかもしれないのでお話してみます。きっとわかってくれるはずです。」
どうやらアンの頭の中はお花畑の様だ。
「ダメだったら、偽証罪か何かで捕まるぞ。」
「えっ。そんなことはあるはず・・・。いえ、あるかもしれないですね。どうしましょう。」
アンの顔が暗くなる。
「とりあえず、馬を貸してくれた先輩とやらに会ってみよう。助けてくれるかもしれない。」
「そうですよね。先輩は優しいですし。」
途端に顔がパッと明るくなる。見ていて飽きないな。
「千波矢さん、そろそろ出発しましょうか。」
「できればもう少し休みたいんだが」
「あまり休むと夜になります。」
こうして俺は馬に揺られ、なんとか王都に到着することとなった。




