57 皇室騎士
「れ、レイジ殿……説明を求めてもよろしいかな?」
どうしよう…………
公爵の屋敷で狼藉を働くなんて、指名手配モノの犯罪だ。
冷や汗が頬を滑るのを感じる。
「……ふぅ」
時間稼ぎのふぅ。
どうする?打開策は……
公爵をよく観察しろ……
そこにきっと解決の糸口がある……多分!
……むむむ。
心なしかオドオドしている?
そうか!彼は昨日のおれの戦闘を見たはず。
やられかけていたあいつの目の前できゴブリンのキングとエンペラーを瞬殺したはず。
加えておれは先程暴れ回ったばかりだ。
つまり、おれの力を恐れている……?
とりあえず様子見と時間稼ぎか。
「……この状況を見て、何か分からないことがあったかな?」
次は……誘拐犯が公爵邸にいた事について言及する!
お前の仲間なんじゃないか、と。
疑って疑って疑い尽くせば、白でも黒でも多少動揺するはずだ。
そこを突いて、会話の主導権を頂こう。
「……分からないことだらけだ。レイジ殿は、何故ここに?」
「見て分からんか?お前のお仲間が攫った大切な人を取り返しに来たんだが」
君達が手を出したのは僕の大切なものだったんだよ、ということを付け加える。
すなわち、今すごい怒っています、と。
打ち上げでの会話に出てきた感触から言うと、この公爵は豪快で実力があり、部下思いで部下から慕われているようだ。
常識人でよく出来た人間という評価になる。
「……ッな、まさか……こいつが?」
「こいつというのが足元の男を指しているなら……その通りだ。で?お前はおれのなんなんだ?敵か?」
「ちょ、待ってくれ!敵じゃない!敵じゃないから!!ほら、武器も持ってないし、なんなら裸で来てもよかったが……」
変態だったか。
だが性癖と性格は必ずしも比例しないはず。
変態とは変態性欲の略語で、要するに一種の差別用語だが、昨今の日本で受容と理解が進みつつあるLGBTQ(レズビアン、ゲイ、バイ・セクシャル、トランスジェンダー、クエスチョニング)はともかくとして露出狂は変態でいいと思う。
「じゃあなんだ?」
「俺は自分家の庭に大穴を開けられた理由を知りに来たんだ!」
「あ゛?」
「……です。池を作る予定はありませんでした……別に責めてるわけじゃないって言うか、この機に池掘ってもいいかなみたいな……」
声を荒らげてきたので睨み返すと口調が変わった。
「ならもう話は終わったな。……で、そっちの彼、殺していい?」
(憤怒)消えたけど(激怒)状態まだ残ってるんだよね。
「いや。待ってくれ。コイツは…俺の息子なんだ」
「それで?」
強気で押す。相手の弱気につけ込んで、多少の無茶も押し通せるくらい強気で。
「待ってくれ……頭の整理がつかない。こいつが、そこの猫人の女性を攫った……?」
「カグヤ、何された?」
「えっと…何か変な事言って、耳と尻尾を切られそうに……」
「やっぱ殺す」
「ま、待ってくれ……こいつの身柄は預からせて貰っていいか?ちゃんと、帝国法に則って処分を下す」
「身内のお前が?」
「身内だからと言う理由で庇うことは無いと誓う……身分が身分だから減刑はされるだろうから君の望むようには、死刑にはならないだろうが……どうだろうか」
何それズルい。
だったらおれも無罪にして欲しいんですけどー!?
おれが強気でオラオラ言ってるうちに、公爵が弱気で顔色をうかがっているうちに……言質とったんぞオラァ!!
「で?仮にそうなったとして……次は、領主邸を襲撃したおれを裁かなければな?」
「いや、それは……だって、裁くとか裁かないとかの前にまず捕まえれないし怖い……いや、怖いって言うか無用の争いは避けるべきって言うか……ほら、アレだアレ。原因はこっちにあったんだから不問とする的な。こいつの腕をちぎったのも犯罪者だから問題ない、みたいな……どうだ!」
「ならいい。ところで、帝国法によると貴族や名誉貴族に手を出した平民は死罪らしいな。それに対して貴族から平民の場合……殺人でも多少の罰金と謹慎処分の判決であることが圧倒的に多い。貴族がEランク冒険者の身内に手を出した時の刑罰がどうなのか……楽しみにしておこう」
「あ、ああ……英雄の身内な。うん」
「うん、民衆の怒りを買わない様な選択が望ましいよね」
おれも民衆だし。
「民衆の中に英雄が紛れてるからな……」
……解決?
かな?
……と、そう思った、直後。
ふわり、と、数人の男女が穴の中へ飛び降りてくる。
「ふむ」
おれ、公爵、誘拐犯、そしてカグヤをざっと見渡して。
飛び降りる瞬間、既に察知していたはずの状況を再確認し、口を開いた。
「これは何事ですか……?フォリオ卿」
解決…………とは、いかなさそうだ。
「その紋章は……!」
「……ッ!!」
公爵が呻く。
おれも呻く。
あの紋章!!
あれは確か…………
「なんだっけ?」
「皇室騎士団……」
皇室騎士団。
当然だが、皇室の騎士団……皇室出身のでは無く、直接皇室に使える騎士である。
騎士の中の騎士、誰もが憧れるエリート達で、普段は皇族の護衛やらで帝都に留まっている彼等が動くとは余程の緊急事態と認識されたのだろう。
援軍で来なかったという事を踏まえれば、緊急性に気付いた、と言うべきかもしれないが。
紋章については既習範囲ではなかったので知らない。
「皇室騎士団のフレデリック・マーキュリーです。これは、何事ですか?…………フォリオ公爵と、謎の竜人よ」
▽
「説明しようか?」
「いや、俺がやる。……騎士殿のご要件は?」
「まずは先の大襲撃についての調査や後始末。それと魔物の群れを殲滅したという男を探す事。皇帝陛下の個人的な用と表彰があるようです。ここで活動するにあたり、まずはこの都市の領主たる公爵閣下に挨拶するのが筋と考え出向いた次第です…………それで、この状況は?」
「なるほど、ならば2つ目の目的については既に達成されたと言っていいでしょう。そこの竜人の彼がゴブリンキングの群れを率いるゴブリンエンペラー、そしてドラゴンを打ち倒した英雄、レイジ殿だ。」
「なるほど、彼が……しかし」
公爵家の惨状、その下手人であるおれ。
騎士の言葉を先回りして、公爵が言った。
「それについては完全にこちらに非がある。私の愚息がそこの猫人の女性を攫い、あまつさえ暴行を加えようとしたようだ……原因が原因である上、当事者が当事者なもので……どうしようか悩んでいたところです」
「ほお、なるほど……犯罪者相手とはいえ、通常であれば処分はは身分差に比例する……ですが」
「おれは平民だ。まぁ、この国の人間ではないが」
どこの国でもない、というのが正しいのだろうが、変なことは言わない。
「平民とはいえ、今回の功績はさすがに無視できない。頭の固い貴族連中が何と言おうと……そもそも捕えられるのか?という話だ。まぁ交渉のカードに利用されたりはするかもしれんが、公爵家は不問の方向で考えているし、実際そうするだろう。一応の調査を終えた後でな」
「そもそもご子息は何故?」
「そこまでは未だ……」
「さっき聞いた感じじゃあカグヤに惚れてて暴走したってとこだったが」
「……はぁ」
あまりの理由に、公爵がため息をつく。
息子くらいちゃんと教育して欲しい。
公爵自体は常識人ぽいけど。
まあ、親子だからといって性格が同じとも限らないということだろう。
「話の腰を折って申し訳ない、失礼だがこれをもってフォリオ公爵へのご挨拶とさせていただきます。一刻も早く調査に入りたいので……もしかするともう聞き及んでいらっしゃるかもしれませんが、王国の予言師が大災厄の到来を予言したようで、そちらも視野に入れた調査をしなければ」
「大災厄……まさか生きているうちに来るとは」
「ええ。今回の襲撃、ゴブリンとはいえ帝級まで発生したとか。可能性は高いかと」
迷宮でも王級には遭遇したが階層ボスとして出たオークキングくらいで、帝級は見かけていない。
帝級とか王級というのは強さの指標ではないが『うちの兄ラグビー部のレギュラーなんだ』と言われたら『ムキムキなんですね分かります』と返すくらいには強さを表す。
「それだけではなく、数も異常だった……キングが10体以上、雑魚全て合わせたらゴブリンだけで数万……大災厄の影響だというのか……?」
それについては、おれがジェノサイドしたからかもしれない。
言わないけど。
というか言えないし。
「そして────人為的な大発生の可能性も高いかと思っています」
ミギャァァァァァァァァァァっ!?
「じっ……人為的な、だとう!?ば、ばかなーーー…………」
落ち着こう。1回落ち着こう。
「ふふふ、驚くのも無理はありません」
「そ、そんなことが可能なのか?」
「人為的に大発生を引き起こすことは可能です。さすがに方法は伏せさせて頂きますが、理論上可能との研究が出ています。最も、そう簡単に出来ることではないですが」
「しかし、何故……」
「ふむ。聞いた通りの規模なら、如何に高位冒険者が多いこの迷宮都市でも軽く滅ぼせるものでしたので、まずは侵攻目的の可能性」
ありません。
「それから、確か数年前の襲撃時、武器やアイテムの不足、モンスター素材の多量流通……それらを上手く操り一気に巨大化した商会がありましたね……?」
「むぅ……考えすぎとは思うが……」
本当に考え過ぎだ。
伏線に聞こえなくもないからやめて欲しい。
「ええ、しかし大発生の規模や出現する魔物の種類を操ることが可能ならば──
──この都市の人口と職業の割合を考慮して──
──その際発生する経済効果は──
──その後の復興活動における──
──特定商品の不足と供給過多を──
──仮に一手に引き受けたとき期待できる利益──
──ならばその……おっと、喋りすぎてしまいましたね。とにかく、可能な限りあらゆる可能性を考慮して調査を進めるつもりです」
……ふぅ。知的キャラか。
嬉嬉として語るところなんか、スライムだったらまるっと被るところだったな。危ない危ない。
「……あはい。ご武運を。皇室騎士の身分なら必要ないとは思いますが一応この指輪を差し上げます。立ち入り禁止場所への立ち入りや閲覧禁止書物の閲覧の許可になりますので」
「有難く頂戴します。レイジ殿、調査が一段落したらもう一度お会いしたいのですが」
「分かった、毎日ギルドに顔出すようにするから、そっちに伝言を預けてくれ」
「了解しました……では」
来た時と同じように機敏な動きで飛び上がり、直ぐに気配が追えないほど遠くへ駆けていった。
「では、おれもこれで失礼します」
(激怒)も消え、すっかり冷静さを取り戻したおれは常識人なので敬語だって使えるのだ。
「飛べる?」
「流石にこの高さは……」
「おけ、じゃあつかまってて」
俵みたいに抱えるわけにも行かないし、壁面歩行するつもりだからおんぶも却下。
よって、お姫様抱っこを選択します!
帰り際、猫耳美女をお姫様抱っこして壁を歩くおれを公爵は変な虫でも見るような目で見ていた。
ついでに、腕の中のカグヤには珍獣を観察する様な目で見られていた。
街にはまだお祭りムードが漂っているけど、あまりそんな気分にはなれなかった。
今回はなんとか間に合ったけど、次も間に合うとは限らない。
おれは誰にも負けない自信はあるけど、守りながらでどこまで戦える?
守るというのは、代わりに被弾することだ。
なら、手が届く範囲でないと守れない。
強くならないと護れない。
上等だ。
好きに生きるための努力なら、なんだってやってやる。
▽
"本当の愛を与えてはいけないよ"
"決して自分の『1番』を、他人にしてはいけないよ"
"それは君の弱点になるからね"
『誰よりも強くなっても?』
"誰より強くなってもさ"
『それは、悲しい生き方だね』
"確実な生き方さ"
(*」゜∀゜)」HEY!HEY!
ブクマ評価してみませんかー?
ホントは10万しますけどお客さんならタダでいいですよー




