56 誘拐犯
「あ、レイジさん!カグヤを見ませんでしたか」
「カグヤ?見てないなぁ……君は、あの時の……えっと、カグヤの友達だっけ?」
「あ、はい。そうです。昨夜うちに来るはずだったんですけど来なくて……家にも居ないし」
「……?ちょっと探してみるから……ここで待ってて」
龍眼。魔力の追跡を得意とする龍の眼だ。
(こっちか……?)
だいぶ遠い。
カグヤが友達との約束をすっぽかして、何も言わずに行くとは思えないが……
数分後、たどり着いた場所は。
「領主邸……?」
(ギルドの使いだろうか)
一応覗いておくか。
"見透かす眼"。
次の瞬間。
おれは領主邸を襲撃していた。
▽
手元の書類に目を通し、ため息をつく。
「この街にやってきたのが半月前。それ以前の足取りは全く不明……身分証もなし、1文無しの状態で入街税ツケ払いの誓約書に"ジョン・ドゥ"と署名し、冒険者登録時に試験官として戦ったレンに勝利。その後大量の魔物の死骸を提出し……その時に誤って"オーガの上位個体で、明らかに亜種か変異者だった"ものを出して即座にアイテムボックスに収納……?何がしたいんだ、こいつは。登録時に提出した公開個人情報は『レイジ・竜人・Lv.1・武器:刀』。特技とスキル、職業は記入なし。パーティを組むつもりがなかったということか……。宵闇亭に宿をとっている、街中ではよくSランク冒険者のロザリアといるところを目撃されている、屋台の串焼き屋に毎日顔を出す、娼館『ヘメロカリス』で…7人?…ぉお、すげぇ。襲撃開始当時は指名依頼で薬草の採取を行っていた……レンが言ってたな……それと?なになに……ロザリアのか。初めてあったのは西の森……森で裸……変態か?高ランク冒険者はそういうのが多いと聞くが……しかし露出狂か」
情報がない。
この街に来るまえの情報がこれっぽっちもない。
存在を秘匿されていた……?……ありうるな……
それとも……竜人なら寿命が長いはず。隠居していたスゴいやつが出てきた?……ありうる……
あの奇抜な衣装でうちの諜報員の目を欺いている?……ありうるッ……
それとも、ただの変態…?…………ありうる……
努力は人を強くする。
努力の原動力となる感情が強ければ強いほど、人は努力し、強くなる。
幼女趣味の有名どころでは"幼女の守護者"、"見守る者"
露出狂では"惡趣裸"や"纏わざるモノ"などがそうだ。
嘆かわしいことに、いずれもこの国を代表するSランクの冒険者である。
更に嘆かわしい事に、前述の露出狂はどちらも男である。
「サイコパス、腐女子、SM女王、ナルシスト、ゲイ、オカマ肥大筋肉の塊……性癖自体はまぁ、個人のアレだから問題ないとして…………問題なのは布教することだよな……まともなSランクは、半分……と」
思い出されるのは、昨日の戦闘。
宙を歩き、両手を広げる。
槍が現れ、死を撒いた。
火属性と水属性の魔法を使い、謎の特殊能力か何かで魔物の群れを肉塊に変えた。
天に祈るかのような仕草で殺戮を生み出す彼と、風に揺らめく袖の緩い民族衣装が、どこか神秘的に記憶に残っている。
「………………とにかく、絶対に敵対はしないように……出来れば同盟関係、部下でもいい……最低でも、非敵対か不干渉を……」
ドッォォォオオオォォオオオオオオオオオォ
オォオォオオォォォォォォォオオオォォオ
ォオオオ ォォォ オオ ォォォオオオォンンンンンンンンンンッ!!!!!!!!!
青白い手、巨大な殺気。
「………………なんでぇ」
直ぐに分かった。
襲撃を受けた。
泣きそう。
「待て待て待て待て待て!ヤバいって!今『できれば同盟関係……』とか言ったのに!?」
「カーマイン様!」
「……騎士も兵士も集めるな。戦闘態勢と受け取られる。俺だけで行くが……彼はどうした?地下か?」
「そのようですね」
「地下に何かあったか……?」
「一応宝物庫はございますが」
「狙いはそれではないだろう。尋常じゃない殺気だ。怒り狂っている…怖い…刺激してはいかん。怖い」
何に腹を立てている……?皆目見当がつかん。
とにかく早く行かねば……
………………
…………
……
…………行って、どうする?
ふと、足が止まった。
ゴブリンエンペラーを瞬殺し、ドラゴンブレスを耐える男が怒り狂って暴れている。
何が出来る?
極めつけは、アレだ。
槍を生み出す能力?
あの手数、あの威力、あの回転数……
あれを使われてみろ…………街が滅ぶぞ。
秒で。
どうしろと言うんだ。
俺はどうすればいいんだ。
逃げちゃおうか。
……とにかく、会話出来る状態である事を祈って……怒りの原因を突き止め、いち早く排除する!!
公爵家の意地を見せてやるとしよう。
庭に空いた巨大な穴に飛び込むと、英雄に殴り倒される、いつの間にか帰ってきていた我が息子が目に入った。
「えぇ……?」
公爵家の意地は?
▽
正門を押し潰し、巨大な腕状のマジックハンドを振り下ろす。
今まで通りイメージしたのは最も扱い慣れている武器、すなわち、自分の手。
マジックハンドに殴られ抉られ、大きく陥没した庭の穴に飛び込んで、叫ぶ。
「カグヤ!」
▽
無事にカグヤを保護し、気を失った彼女を腕に抱えて歩く。
美しい寝顔を眺めて、幾度目かの決心をする。
守らないと。
僕が。
カグヤは……なんというか、"理想の女性"という言葉を体現したような存在だ。
美しい黒髪、女性らしい身体付き、明るい笑顔に親しみやすい性格。
完璧だ。
だからこそ……………………悔やまれる。
彼女が、獣人だということが。
しかし、それがどうした……?
愛の前に、種族の壁などないのだから。
愛するにも、愛されるにも、種族の制約など存在しない。
ただ…………やはり、完全にないとは言えないのだ。
ならば、それを無くせばいい。
消せばいい
とればいい
原因を無くす。
簡単な話。
裏口から屋敷に戻り、地下室に下りる。
「アースウォール」
壁の一角に魔力を流し、移動させる。
現れたのは、広い部屋……僕が作った、隠し部屋。
眠姫を椅子に下ろし、念の為に手足と頭を固定する。
さぁ、起きるのを待とうじゃないか。
「ん……ここは……?」
「おはようカグヤ。ようこそ、僕の部屋へ」
「ッカ……カーマセーヌ、卿……!一体、何を……」
「決まっているでしょう?あなたを助けに来たのです。今回の襲撃には間に合いませんでしたが、次は必ず。必ず、貴女の傍で貴女のために戦い、もしくは貴女のために道を開き、貴女と共に逃げましょう」
「それが何故……このような、拘束を受けることに繋がるのですか……?」
「ぁあ、貴女は分かっていない。世界中で最も貴女を幸せに出来るのが僕だということを。貴女は分かっていない。ならば、分からせます。とはいえ……僕は紳士なので、強制はしません。僕を選べばどうなるか、そして僕を選ばなければどうなるかをじっくりと教えるだけです」
「……何が、紳士ですか……!」
「ぁあ、気に病む必要は無いのですよ?あなたは獣人、薄汚い獣の血を引く人間。私は人族。……それを気にかけているのですね。私に釣り合わないと。……違いますまるで違ういますよ、カグヤ。釣り合うかどうかなど、当人達が決めればよいのです。……私は純正の人族。貴女は獣人。でも、それがどうしたというのでしょう。その耳と尻尾は、あなたの魅力を損なう要因にはなり得ない。獣の血?そんなものは関係ない。種族的に劣ったものが必ずしも能力的に劣るとは限らないからね」
「……とにかく、これを外してください」
「仕方ないんですよ。僕だってこんな事したくない。こんなものは貴方に似合わない。でも……ホラ、僕は、貌から入るタイプなので」
「かたち……」
「ええ。まずは──」
まさか、ここまでするなんて。
人格者で知られる公爵の息子なら強引な手に出る可能性は低いだろうと思っていたけれど。
とんでもない狂人だ。
「──その耳と尻尾を、取りましょう?」
「ッ……!」
「穢れた耳と尻尾を加えて尚その美貌……。耳と尾を無くし、貴女はさらなる美しさを手に生まれ変わる。僕は貴女をより深く愛せる……どうですか?」
土魔法で巨大な鋏を作り、数度開閉し使い勝手を確認して……
「気を付けないと。髪を傷付けないように……」
「誰か……助け、て」
ひんやりした感触が耳の根元を横切って。
「よし、じゃあいくよ……ほら、怖くない……」
「助けて……レイジ……」
「……レイジ?誰だい、そいつは。男?」
「助けて!レイジッ!」
「カグヤ……浮気かい?まあいい、直ぐに分かる。私の愛が。そして君は、僕を受け入れる」
「助けてっ!助けて……助けて……」
「無駄だよ。ここは公爵邸の地下……君の声は届かないし、誰もここは分からない」
「……ぁ……」
「さぁ……息を吐いて……大丈夫。痛いのは一瞬さ……あ?……なッ…んだ……!?」
次の瞬間、天井が崩落し、双角の竜人が現れた。
所々赤が揺らめく黒鱗を纏い、胎動する赤黒い角を生やした、竜人が。
▽
さて、辿り着いたはいいが……
コレはなんだ?
視界が赤に染まり、破壊衝動に突き動かされる。
能力……?スキル……それとも血が上っているだけ?
いや、そもそも血が上って視界が赤くなるとかあるのか……?
「ロックランス!」
向けられた敵意に反応して、破壊衝動が増していく。
身体が軽い。
今らな空も飛べそうだ。
剣を振りかぶり飛び交って来た男を殴り倒す。
こいつはだれだろう…………誘拐犯?
誘拐?誰を?
………………忘れたな、まぁいいや。
まだ1人残っている……黒髪の……誰だっけ?
まぁいいや、殺そう。
「クソがァ、死ねぇぇええ!」
「五月蝿いぞ」
マジックハンドで両腕を千切り捨てる。
あと1人……
「ぎゃああああ!腕がっ!僕の腕が!」
五月蝿い、執拗い、見苦しい……
背を向けて……
椅子に縛られた獣人に向かって歩きだし…………
──止まれッ!!
「……くァ、ぐァあああ……ッ……あ゛あ゛あ゛!!」
コレはなんだ!
椅子に縛られたカグヤの目の前で、右の手刀を振り下ろそうとするおれを必死で抑えて状態異常を確認する。
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レイジ
龍魔人(憤怒)
職業:剣士 拳闘士 召喚士 斥候
Lv.216
HP36652/36652
MP???/???
skills
=normal:[痛覚耐性][魔法耐性][状態異常耐性][瞬足][気配察知][危機察知][壁面歩行][隠形][頑強][刀術][性技]
=rare:[鑑定][収納][真眼][転移][感覚強化][部分龍化][魔眼]
=legend:[世界の声][スケープゴート]
魔法適性:無
称号:転生者 魔素の王 機動要塞 攻略者 召喚士 常在戦場 剣聖 拳聖 超級召喚士 NINJA 英雄
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憤怒の魔人:大罪魔人の一。憤怒を司る魔人
憤怒:発動条件『極度ノ怒り』
左手を胸に当て、マジックスピアを出す。
「グッ……」
3万あるHPがみるみるうちに減少し、0になると同時にMAXに戻る。
憤怒もリセットされた。
「……はぁ、はぁ……大丈夫?カグヤ……マジックハンド」
「レイジ!」
拘束を解き、飛びついてきたカグヤを抱き締める。
……さて、どう説明しよう。
まぁ、被害者が証言すればなんの問題も無いだろうが……
公爵邸を襲撃した上庭に大穴を開けてしまった訳だが……
おれが開けた穴から飛び降り、ダウンした謎の不審人物に駆け寄るフォリオ公爵を眺めて、これからどうしようか悩むのだった。
最悪逃げればいいか。
気が向いたらブクマ評価お願いします
季節の変わり目、急激な気温変化と台風にはお気をつけて




