50 指名依頼
✋(◉ ω ◉`)よお
なんだか頭がぼーっとするお
そんなこんなで、この街での生活ももはや1週間少し。
「レイジ様に指名依頼が入っております」
「??なんで?おれ、まだEランクだよ?」
「ギルドマスターからの指名依頼ですね。あの人は登録時試験官として戦ったので、あなたの実力を知っています」
「なるほどね。依頼内容は?」
「薬草採取です。高位のポーションの原料となる薬草をできるだけたくさん採取して欲しいと。……行先は、死の山脈。Sランク冒険者でもパーティを組まなければ立ち入らない、恐怖の山です」
「一つだけ聞いてもいい?」
「はい。馬鹿げてますよね。こんな、流石に……」
「いや、受けるっちゃ受けるけど」
「え?」
「これ、昇格試験とかじゃないよな?」
最近、ギルドマスターがはやく昇格しろとうるさいからな。
カグヤはちらりと書類を見て、言った。
「……エット、チガウトオモイマス」
「はい、ギルマスに言って来て〜。昇格試験なら受けないよって」
「まあ、待ちたまえ」
音もなくカグヤの背後に忍び寄った筋肉エルフが言う。ひゃ、と驚きの声を漏らしたカグヤさんが可愛すぎる。そして背後の裸筋肉が犯罪者に見えてしょうがない。本当に上半身裸でうろつくのは勘弁して欲しい。
彼は最近、あの手この手を尽くして指名依頼を受けさせようと躍起になっている。
ギルマスも馬鹿だな。騙すのでは無く……例えば、例えばの話だがカグヤさんが中腰しながら両腕でその豊満な胸を強調させつつ上目遣いで頼むようなことがあればおれは1日、いや1時間でSランクでも、その上にあるとされるSSランクにでもなっただろう。
パチンと指を鳴らして、防音のためだろうか、風の結界を張ったギルドマスターの筋肉が口を開く。
「なんで昇格したくないんだ……」
「だってめんどくさいし。勧誘とか、強制指名依頼とか。」
「高ランク冒険者は凄いぞ。なんてったって公共施設の利用料金が……」
「あ、この依頼、気が乗らないんでパth」
「すまなかった。これを受けてくれたら君には万年Eランクの2つ名を報酬として……」
「要らん。けど受けるぜ、この依頼(報酬がイイから)……にしても、なんでまた?」
「嫌な予感がする。何かが起こる。私のスキル[超直感]がそう言っている」
「へー……戦いになるか?」
「なるだろう」
「だから回復薬か。大変だな。前回の大発生からまだ2年だろ?また大発生か?」
「分からん。ダンジョンモンスターの大発生か……魔物の異常繁殖か。こんな時に限ってSランクの……ほら、カグヤに言いよってるやつも依頼を受けていて帰っていない。最高戦力をここから遠ざけるのは不味いが、回復薬は必要だ。1人の最強より、多数の戦力が求められる事もある。出来るだけ早く、できるだけ多くの薬草を採取してきて欲しい。それも、高い効果があるものや様々な状態異常を回復するものが必要だ。だからこそ死の山脈だ……この依頼を受ける者は、薬草の知識があり、尚且つ最低でもSランク程度には強くなければならない。つまり、君だ」
「Sランクでもパーティ組まないと無理って聞いたげ?で、どのくらい必要なんだ?」
「できるだけ多くだ。ただし、1週間以内には帰ってきてくれ。警備を強化し、錬金術師を集めて待っておく。近くの街からの救援は期待できない。要請はしたが……転移陣の使用許可はおりなかったようで、時間がかかる」
「分かった。直ぐに行こう。ところで、スキルとはいえ直感だろう?よく要請が通ったな」
「皇帝とは知り合いでな。……とにかく、希望する移動手段も提供する。すぐ行ってきてくれ……ただし、死ぬなよ。決して深入りするな。あそこは化け物の巣窟だ」
「ところで、魔物が攻めてくるなら、おれが周辺10キロくらいの魔物を駆除してこようか?そっちの方が確実じゃないか?」
「いや。大発生なら新しく魔物が作られるだけだし、魔素が濃い場所……この辺では森だな。魔境で、魔素を残したまま魔物を減らしすぎると何が起こるかわからん。魔素から魔物が発生することがあるのは知ってるだろう?過去にはそれで帝級の魔物が産まれたり、魔物の異常発生や濃い魔素が瘴気となって漂い特級指定魔境化したという記録があるからな。まあ、普通個人でできる事じゃないが……まさか、出来るのか?」
「さあ?やってみないと分からんな」
C級の魔物でもある走竜を借り受けた。
翼も無いくせに竜と名がついてはいるが、戦闘力は低い。そのくせプライドが高く、あまり言う事を聞かない。
が、おれの命令にはよく従うようだ。
「すぐに分かると思うが、道は無い。行きは平原を山へ向かって走ればいいから話は簡単だ。問題は帰りだ。常に自分のいる場所と街への方角を頭に入れておけ」
死の山脈まで2日。4日間採取をして森に転移しよう。
7日目の朝に帰る……早すぎるかな。
6日分の食料を購入して、門を出た。
収納内では時が止まるので、いつでもどこでも出来たての定食に焼きたての串焼きが食べられる。
足りなければ何か焼くから問題は無いが。
▽
西の森の立ち入り禁止が解除された……どころか、魔物の間引き依頼が破格の報酬で掲示されている。
ニュースや常時依頼、そして緊急依頼が掲載される掲示板だ。
つまりこれは、緊急の対応を要すると判断された事例である。
人数:制限なし。
報酬:全ての素材、討伐報酬を通常の5倍支払う。
依頼主:冒険者ギルド、フォリオ公爵家
備考:魔物の大量発生を確認。用心されたし
大量発生した魔物は森から溢れ、街を襲う。
そうなる前に、できる限りの魔物を駆除しようという事だ。
「受けるか?」
「うーん、どうだろう。一攫千金のチャンスではあるけど……」
東の森に魔物が大量発生した。この報せは迷宮都市全体に発表され、1部の住民は避難を始めた。
護衛依頼が大量に舞い込み、避難を選択した1部の冒険者が護衛の依頼を受けた。
4日目。住民の半分と1割程度の冒険者が姿を消した時、それは起こった。
「弓隊──てェェッ!」
▽
走竜に揺られて1日と少し。
休む間もなくフルスピードで走らせながら、無属性の回復魔法で体力を回復させ、疲労を取り除いてやったおかげで、かなりの時間短縮ができたと自負している。
走竜の方は、手綱を引いても止まらなくなったので仕方なく足を払って体を浮かし、同時に地面に降りて抱き抱え、
「グハッ!?うぉ、ちょ」
木々をなぎ倒しながら100メートルほど進んで止まった。
バタバタバタバタ…
「おお……凄い根性だなおい」
頭から尾まで、全身の力が抜けているのに脚だけを猛スピードで動かしている。
「まるで……ぁ、そうだ!」
閃いた。これを使えばそこらの魔物は容易く蹴散らせるのではないだろうか、と。
弱い癖に走りに特化している為C級になっているんだ。どれほどの脚力か、見せてもらおうじゃないか。
試しに気配を消して……おい、お前も消せよ。バレてしまうだろ。
諦めて走る。白い花を摘んでいるオークの背後に立ち、走竜を……重いなコイツ。
パチュンッ!
「パチュンって………」
頭が弾け飛び、胴体が倒れる。
酷使しまくったお詫びに、少しレベル上げを手伝おう。
索敵にかかったオークの集落に向かう。
皆さんご存知のオークは女性を攫い苗床にしたり人肉を食べたりするから、見つけたらすぐ駆除すると決めている。
まあ、この辺りに人里は無いからこの集落のオークは誰も襲っていない可能性もある。
というか魔境に人が住むわけが無いから、十中八九、人を襲ったことは無いだろう。
まあ、そんなことは関係ない。
彼らが(テイムされていない)オークで、俺が人間である以上、敵対は必至。
顔を合わせば殺し合い、殺せば喰らい合うという、自然の摂理。
敵性種を生かしておく理由は無いが、態々拷問して苦しめて殺す必要も無い。
今のところ彼らに恨みは無いし、自分達も彼等も、摂理に従って生きているだけだ。
オークの頭を消し飛ばすという作業は、走竜が意外にも重たく、重心が安定せず走りにくいので若干難航した。
そもそもオークなんて拷問したところで、楽しくもなんともない。
おれが見たいのは、自分が奪う側、甚振る側だと信じて疑わないクズが、恐怖と痛みにみっともなく命を請い、精一杯絞り出した薄っぺらな言葉で機嫌を取ろうとする姿だ。
ガードしようとしたオークジェネラルの斧を蹴っ飛ばし、超重量の武器を押し当てる。
少し歩いただけで見つけた将軍級の大物は、1秒と少し耐えた後、頭を明後日の方向に捻じ曲げて息絶えた。
この武器、強過ぎる。
しかし、さすが魔境と呼ばれる訳だ。こんな所開拓したところで連日押し寄せる高ランクモンスターに呆気なく滅ぼされるだろう。
規模も凄いことになっている。将軍級が頭張ってる集落のはずが、200匹程の大きな群れだ。
これはつまり……恐らくだが、ここら辺ではオークでさえ食物連鎖の最底辺。
大きな群れを作って身を守っていたのだろう。
とにかく遊んでいる暇はないのでお世話になった走竜を地面に横たえ、早速薬草採取に取り掛かる。
オークの財産を根こそぎ奪って、オーク村を出る。
背後では、足を動かし続ける走竜が少しずつ動いていた。
井戸に落ちたりはしないだろうか。……ちょうど、机の隅に置いた携帯がバイブレーションで落ちるように。
予定より半日早く着いたが、やることは同じ。薬草は片っ端から収納、見つけた魔物は全て倒す。特に、ポーションの材料が取れる魔物を。
4日と半日。完徹で作業し続け、売れば一生遊び暮らせる位の薬草を採取した。
オークの集落に戻り、新たな住民のゴブリンを殲滅し、放置していた走竜を探すが見つからない。
野生にかえったのか。殺して経験値にすれば良かっただろうか……いや、それは流石に良心が痛むな。
(転移!)
喧騒と怒号、悲鳴、爆発音。
襲撃は始まっていた。
(遅かった……)
本当は、毎日様子を見に戻るべきだった。
転移のことは誰にも知らせていないとはいえ、絶対に隠し通したい秘密などではなかった。
超希少スキル、転移の使い手であるとバレようが助けに戻るべきだった。
転移距離の増加とともに指数関数的に上昇する消費魔力から異質な程の魔力の多さを知られても。
リザードマンだった頃に使いまくった(とはいえ目撃者の大半は生きていない)『無属性魔法』を目撃されても。
その結果として予想される様々な面倒事の中に、人命より重いものがあっただろうか?
勿論あった。
だが、それは見知らぬ人間何人分の命と釣り合うだろうか?
分からない。
だから、全力で助けるのだ。
おれが此処に来た以上は。
そもそも、魔物達が出てくる西の森はおれの住処だった場所で、ギルマスの発言を思い出せばこの大量発生の原因はおれである可能性もあるのだ。
だから、助ける。
レイジの方ではヒーローで在りたいのだ。
少し遅かったが、ヒーローは遅れてやってくるということで勘弁してもらいたい。
ヒーローは対応する側である以上、少々の遅れは仕方ない。
遅れた代わりに……マジックハンドもマナハンドも使って、圧倒的に勝つ。
まずは、挨拶替わり。
戦場と化した平原に、身の毛もよだつ殺気と魔力の圧が吹き荒れた。




