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進化論~レベル式進化説  作者: ツタンカーメン
1章 始まりの迷宮編
5/65

5 アレン③

『親父ッッ!!!!』


2本の前足を失ったグリズリーは、もう放っておいても出血で死ぬだろう。腹に大穴を開けた親父も。

穴の空いた腹から血がドバドバ流れ出し、地表に溜まった雨水に溶けて広がる。


『アレン...済まない、な』


なんだよそれ。なんなんだよそれ!!

何で親父が謝るんだ!!!俺を庇わなければ…

こんな最悪のコンディションでも、きっと親父が負けることは無かっただろう。


『アレン....守るために戦うってのは、難しい事だなぁ』

『うっせぇ!もう喋んな。傷が...』

『でもよぉ....その分、誇らしい、事、なんだ...ぜ』

『うるさいっ!!』

『お前も、何時か分かる、日が、来れば...良いなぁ』

『.....』

『』


『なんでだよ……』


頬に伸ばされた手が、力なく地面に落ちた。


『分かりたくねぇよ……』



体の芯が熱を発する様な感覚がやってくる。レベルアップ後に増加したステータスが原因のレベルアップ酔いだ。

この感覚からして、かなりの経験値が入ったようだ。


①経験値は、トドメをさしたものに多く分配される。

②その際、討伐に貢献したものには貢献度に応じて経験値が分配される。

③討伐時、既に死亡したものには、経験値の分配は行われない。

④分配対称の死亡等で余った経験値は残りの討伐貢献者に分配される。分配法則は②と同様だが、一定以下の貢献度の者には分配されない。

⑤分配対称者がいない場合、経験値は無くなる。


見ずとも理解した。親父は死んだと。

レッサーウルフに応戦した者達は、殲滅が完了していないのか、怪我人が多いのか。

まだ誰も来ていない。


『グルル...』


レッサーウルフ。。


『..邪魔すんなよ』


エアーカッターを少し強めに発動する。近くの倉庫の壁を巻き添えにして、狼肉のミンチが完成した。

村に入り込んだ魔物の掃討は終わったのだろうか、武器を持った男達が駆けつけてくる。

できればもう少し、一人でいたかったんだが。雨に濡れた顔では、泣いているかなんて分からないだろう。


『おい、大丈.....隊長!!!?』

『アレンは大丈夫か?』

『コイツか....ジャイアントグリズリー』





慎ましやかな葬式が行なわれ、柵を改修、補強し、ラルゴ村は平穏を取り戻した。


死者7名、重軽傷者18名。

大雨による家屋の浸水とほぼ全滅した作物の被害の方が甚大だ。


ジャイアントグリズリーとレッサーウルフの群れが村落に侵入したとは思えない程被害は小さかった。


食用にならないレッサーウルフは、毛皮と牙を回収して焼いた。

ジャイアントグリズリーは、毛皮をはぎ、血抜きの後魔素が抜けるのを待って、村で食べた。


その日からアレンは鍛錬と勉学に励んだ。

時折森に入って魔獣を狩り、9歳だったので見習いとしてだが、警備隊にも入った。

死ぬことは怖くなかった。死ねば何も無くなり、恐怖という感情も無くなるのだから。

死への過程で生じるであろう痛みや苦しみが怖く無かったといえば嘘になるが、唯、誰かが自分の死を哀しむ事が嫌だった。

そんな誰かも居なくなった。






襲撃から2年と少し経ち、アレンは11歳になった。


『これより神託の儀を始めます』


ラルゴ村は、その地域で1番大きな村である。1番近い街でも馬車で1日かかるので、周辺の村の子供達が集まってラルゴ村で神託の儀を受けるようになった。

神託の儀とは、12歳になる子供が神から初めの職業を授かる儀式である。

最も、その年に12歳となる子供全員のステータスに正月(1月1日)に最初の職業が表示されるので、儀式の必要は無いのだが、慶事として、そして調査....勇者や賢者といった職業や、悪魔神官だとか殺人鬼といった邪悪な職業持ちを探し出す為に、国のお抱えの鑑定士が監視するのである。

名目上は神より役割を与えられし聖なる儀式ということになるので、多くの場合教会で、協会がなければ広場で、祈りを捧げ神に感謝し、見物人の前で声高に職業を発表する。

どのような職業でも拍手が起こり、家族に、友人に祝福されるのだが────


『....ッッ..職業......〈呪殺師〉....!!!』


────勿論例外は存在する訳で。


博識なアレンがそれを知らないはずもなかった。

群衆がどよめき、神父と共に派遣された騎士に拘束される。


職業に合ったスキルの獲得に補正をかける。

職業に合ったステータスの上昇値に補正をかける。

これが職業。


邪悪な職業は邪なスキルの獲得を促し、邪なるスキルは、得てして人を外道へ誘う、と言われている。

転職可能な職業の解放条件がそれ迄の経験の基くことは広く知られており、ならば神託の儀で授かる職業も....?と言う疑惑は当然浮上した

力なんてものは持つもの次第で善にも悪にもなりうるが......


大衆がそう信じている時点で、それは真実となる。


『あ......』


何時だったか、ウルフに襲われそうになっていた少女だ。

少女が声を上げようとしているのに気付いた母親が娘の口を塞いだ。

邪職持ちは悪と信じ切っている彼女にとって、おそらくは俺を擁護しようと声をあげそうになった娘を止めるのは当たり前の事であり、子を護るという親の義務を果たす為にも当然のことであった。


幼い頃からそう教えこまれ、邪職持ちによる悪行の数々──その多くは自ら邪職に転職したものや、被害の大きさから、邪職者と認定し(・・・)、転職を管理する教会への責任転嫁が行なわれた結果であった──を教えこまれ、それを信じて育った彼らの中に、俺を庇う者が居るはずが無かった。


『待ってよ!そんな筈ない!アレンが邪職者な訳ないよ!』


それでも、声を上げる者がいた。


『ミリア!止めなさい!アレ(・・)は邪職持ちなんだぞ!お前は騙されていたんだ!』

『そんなことない!アレンは......んんつま!』

『申し訳ありません!娘はよくアレと一緒に居たので…...おそらく洗脳されてしまったのでしょう。今日はもう帰らせます。アレの本性を知ったので、直ぐに現実を理解すると思います。お騒がせして申し訳ありません』

『そうか.....可哀想にな。今のことは不問にするので、休ませてやるといい』

『ありがとうございます』


幼馴染の彼女は、先程の娘のように口を塞がれ連れていかれた。

村人達から感じるのは、不安と怒り。

騙されていたと思っているのだろうか。あるいは単純に悪人が村に入り込んでいたことが許せないのかもしれない。

アレンはその日、王都へ連行された。

初めての大都市だったが、護送馬車の中で頭に麻袋を被せられ、手枷足枷で身動き出来ないアレンには、唯賑やかな所だな、という事しか分からなかった。


『殺せ』


通常、犯罪者は、捕えられたら土地もしくは犯罪を犯した土地を治める貴族が処遇を取り決めるが、邪職持ちは、吟味も詮議もなしに凶悪犯よろしく王都に連行され、最終的に監獄砦アルカトラズへ送られる。

因みに作ったのは過去の勇者で、この脱獄不可能と言われる監獄以外にも多くの事で異世界の知識を用いて世界を発展させたらしい。


『殺しますか....非常に"危険"で"凶悪"な邪職持ちを討伐したとあれば名声も得られると思いますが』

『今は帝国との戦争に向けて国力を充実させねばならん時期じゃ。"凶悪な邪職者"が出て、"多くの民が犠牲"になったが、"死闘の末"打ち倒されたなんてストーリーを演じる訳にはいかんのう』

『そうですね。では処分で』

『うむ。処分じゃ』

『次の報告ですが、自由都市アルツブラザの魔道具制作体制の――――』



アルカトラズへの輸送は、王都の転移陣の不調により馬車で行なわれた。

王都から南のカトレア基地まで馬車で護送し、基地の転移陣を使ってアルカトラズに収監される手筈である。

アルカトラズとは、荒野の真ん中に建てられた要塞である。飛行系の魔物や砦の壁を壊す魔物がいないこの荒野に建つ要塞は、外は凶悪な魔物に守られ、唯一の出入口となる転移陣を許可無しに使えば警報がなり、兵士や冒険者が駆けつけてくる。

そもそも王国軍基地の中央に位置する転移陣に何か出来るはずも無く、故にこその無敵監獄である。

2重の巨大な正六角形の外壁に門はなく、外壁間は常に魔道具によって照らされる。

囚人が外壁間の幅約50メートルの空間に出ると、NO WARNING――警告無しで殺す。

魔封じの腕輪をつけられ、魔力なし、武器なし、防具なし、靴なしの状態で雨あられと降り注ぐ魔法を回避し、内側の壁を降りて50メートル走破し、外側の壁を登って魔物犇めく荒野を横断できる人間など存在しない。


が、入る前なら逃げられる。魔物に襲われた馬車は、数少ない護衛を皆殺しにして去っていった。

魔力が高いものを狙うフォレストエイプだった。魔封じの腕輪を付けられたアレンは、魔力0と認識されたのだろう。

今なら逃げ出せる。腕輪の鍵も見つかるだろう。

アレンは、一瞬躊躇した。

俺が生きて何になる?帰る場所も帰りを待つ人も無くなった。いっそこのまま死んで────


迷ったのは一瞬だけだった。

アレンは4年後、タイラントグリズリーに襲われる日まで、森で誰と会うことも無く1人過ごした。

17回目の正月が目前に迫った時期だった。



「........」


何だこれは。

どこが漫画やアニメみたいなもの、だ!

漫画なら視力が発達して無くて色の濃さしか分からない時期は飛ばせよ....

所々違う人視点で漫画っぽくはあったけれども、リアリティが違う。

というかそれはアレンの記憶と言っていいのだろうか。

リアル過ぎる。頭も痛くなるし、二度としたくない。

あと、心が痛い。

アレン...お前の人生、不遇だったな。

しかしスラムとかには路地裏で寝て何日かに1回食事ができれば良い方、働いても賃金を貰えなかったり貰えても奪われたり、気がついたら一緒に居たヤツが殺されてる、なんて子供も履いて捨てるほど居るらしいので、日本人の感覚でアレンを憐れむのは間違いかもしれない。


ただまぁ、間違いなく幸福ではなかっただろう。


少しだけ、狂った世界だと思った。

持つ力が全てという野蛮さは人間の世界である以上仕方が無いだろう。

しかし、この『記憶』にある世界は…………


なんだか歪、というのが素直な感想だ。


日本を知るがゆえの感想だろうか。



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