46 スラム
あの後……
部屋に入って他愛もない会話をしながらイチャイチャして、晩御飯時だったのでご飯を頼んで……それがまた結構高くて。
シャワー浴びたりしながらいろいろやって、酒も飲んで……酒も結構高かったな……おれは睡魔に耐性があるけど彼女らは無かったみたいで7人で交代しながら相手してもらって……
朝ご飯頼んでお酒も飲んで……
あ、あと歯ブラシが非常によく出来ていて感動した。
で、昼までやって、此処に住もーよとかもう帰るの? とか言われながら、後ろ髪を引かれる思いで店を出て……
手元の紙を見る。
¥1750000
「……………………………………………………」
¥の記号を使う癖に1桁少ないという違和感の塊のような領収書。
1750万円。
いや、別に後悔はしてないんだけども。
1200分コースだとしても、120分×10かける7と考えれば日本のソープなら600万もしないだろう。
しかしここは異世界なので。
1食100万払うような"素材の希少性"や"料理の腕前"もあれば
20時間1750万÷7円の[性技]スキルの熟練者の美女と美食&美酒もあるだろう。
実際凄かったし。こっちまで[性技]覚えさせられたし。
(1750万……つまり7人ハーレムの幸福度は一日で最低でも万札1750枚に匹敵する……可能性がある)
今12時35分だから、一日半宿を開けていたことになるのか。
しかし、宿に帰る時間でも無いし、狩りにでも行くか……
(いや、確かこの街にもスラムがあったはず……)
【ありましたね。南東の区域だったと記憶しています】
(スラムを牛耳る組織や闇ギルドは存在する?)
【人間は混沌の中で生きません。秩序を求め、それを作り、強欲と傲慢が秩序を破壊し再び混沌を誘います】
(詩的だなぁ。ようは、存在する可能性が高いってことだな?)
【そうですね】
(なあ、ポエミーちゃん)
【誰がポエミーちゃんですか】
(スラムに優秀な人間はいると思うか?)
【優秀。それは、どの分野での才能をさしているのですか?】
(何でもだ。商売、戦闘、支配、生産……スラムでの生活を余儀なくされている人間が優秀だと思うか?)
【それは、行って確かめるしかありません】
スラムの住人と身売り奴隷は違う。
スラムは鉄格子で囲まれている訳では無いので出ようと思えば出ることも出来る。
しかし、スラム街に住んでいたと言うだけで迫害の対象になりうるし、働く宛もないのでは生活ができない。
その点スラムでは、賃金は低くても日雇の仕事くらい探せば見つかるし、質は悪くても低額で食べ物が手に入る。
奴隷とは、職を失うか多額の借金を背負って生活が困難になり。スラム入りを拒んで自身の権利を売ったものだ。
自分の持つ自分に対する権利のうちどこまでを売るかは自分で決められるし、衣食住の保証もある上購入額の4倍の利益をもたらせば解放される。
因みにこれは普通奴隷の場合で、永久奴隷──犯罪奴隷を含む、何らかの理由で一生を奴隷として過ごさなければならない者はいくら稼いでも解放はされない。
もっとも、これは国が認めた全うな奴隷商人が手掛けた奴隷に限った話で、違法に奴隷を狩り、違法な奴隷契約を結ばせ違法に売り飛ばす違法な奴隷商も存在する。
この世界の奴隷は、思ったより扱いは悪くない。
なのに、何故。
奴隷堕ちという救済措置が用意されているのに、何故スラムで過ごす人が居るのか。
犯罪を犯したから?
極貧層の居住区となり、犯罪や麻薬、アルコール依存や自殺などが多発する無法地帯と化した地域をスラムという。
自分の権利という唯一無二の商品を売り、対価として当面の間の生活を保証してもらうという最終手段を捨てて何故。
全く売れなかったりろくに働かない奴隷は鉱山奴隷──資源発掘や土木関係の強制労役に着く事になるが、それを警戒してのことだろうか。
(スラムの明確な境界線とかないのか?)
【この都市にはありませんね】
ある所もあるのか。
入り組んだ路地を抜け、白スーツに着替え、仮面の下で深呼吸する。
いや、鼻と口は覆われてなかったか。
地面に座り建物の壁に背を預ける男達が、おれをみて腰をあげる。
スラムの住人じゃねぇな、金持ってるだろうし殺すか。とでも考えているんだろう。
「攻撃すれば殺す」
「この状況で何を……。やるぜ!金が向こうから歩いてきやがった!」
「おう!」
「ウォォォォォォォォオオオオ!!」
空腹に喘いでいるだろうに何故大声を出してエネルギーを浪費するんだ。
短剣を手に飛び交ってきた1人目の頭蓋をビンタで消し飛ばす。
中身はともかく外身は意外と硬いので、一応全力で振り抜いた。
その動作が見えたものは居ないだろう。
話をするには、まず『自分は貴方を殺さないし、貴方も自分を殺さない』という約束と、『とりあえず落ち着く』ことが必要だ。
殺そうとしてきたやつと話が出来るわけがないし、殺そうとした以上死んで当然なので殺す。
「で、だ。このスラムの親玉は何処にいる?案内しろ。対価は"殺さない事"だ」
「ふざけるなよ。こっちは23人いるんだ!1人殺したくらいで調子に乗るんじゃねえ!」
そう。23人もいるんだ。
普通こういうのって多くて9人だろう。
スラム1歩目で24人。多くない?
「2度目の忠告だ。敵意を見せれば殺す」
「死ねやァ!」
1人が大声で正面から。そちらに意識を誘導して背後から忍び寄るのが1人、屋根の上から弓を構えるのが2人。
屋根の上の弓2人に短剣を投げ、近接2人組の首を折る。
「3度目だ。動くなよ……動けば殺す」
「全員で行けェェ!」
何故そこまで必死なんだ。おれを金貨か何かと見間違えているのか?
そもそも、スラムに1人で入ってくるやつが手練じゃないわけないのに……まさか白金貨に見えるのか?
倒せば一生遊んで暮らせるぞ!!(inスラム)みたいな。
「動かなかったのはお前だけか。偉いぞ……で、ここで一番偉いのは誰だ?何処にいる?」
「へ、は、はい!ここらを仕切ってるのはジョーカーって奴の組織だ……です!場所は、この道を真っ直ぐ行って2つ目の道を右、そんで……次の角でさらに右、突き当たりを左に行けば右手に真っ白な五階建ての建物がある、ます!1階は吹き抜けになってまして、通り抜けた先に広場があります!そこから見渡せば、黒くてでかい建物が見えます!そこがジョーカーの事務所っす!」
「そうか」
「質問には答えたし、まだ動いてねぇんで……見逃してくれたら嬉しいんですが…」
「口が動いたからアウト」
「ひぃっ!そんな、」
「冗談だ。おれが殺すのは敵とムカつくやつと悪行の現場か証拠を取り押さえた奴だけだ。お前も過去の罪を自白すれば殺してやろう」
「懺悔したら殺される!?」
「罪の内容と反省の有無によるな」
「イエ、ナニモヤッテマセン」
「いいから案内しろ。まっすぐ行って2つ目の道を右、角で右、突き当たりを左に行って右の白い建物の吹き抜けになってる1階を通って広場に出れば見えるんだろう?」
「完璧じゃないですか!案内いらないですよきっと」
「ん……口答えか?」
「こちらになります!行きましょう!」
…………
「何故スラムの建物がこんなに豪華なんだ?」
「ここだけですよ。前の持ち主の時、金をかき集めて作ったんです」
貴族の屋敷かってくらい豪華な内装。
「あの……俺、もう帰りたいんですが」
「何故だ?」
「さっきから敵めっちゃ出てきてるじゃないですか!」
「まあそう言うな。まず頭を抑えよう……こういう時、ボスは最上階にいるって決まってるからな」
「だからって……くっ、」
何だか喋りづらそうだ。息も荒いし額に脂汗が滲んでいる。
「だからって、外の壁登る必要ないじゃないですか!」
「あまり殺生したくないんだ」
「さっき23人秒殺しましたよね!?」
「5分後には俺の手下になってるやつを殺すのは気が引けるっていうか。それにこっちのが近い」
「ちょ、壁面歩ける前提で話さないでくださいよ!てかなんで壁歩いてんですか!?」
「じゃあ下で待っとけ」
「えぇ!?」
因みに敵は窓から顔を出し飛び道具を使う。
窓を割るのは申し訳ないので鍵を切って侵入する。
「窓から失礼」
「どなたですか?いきなり人のビルに登ってきたのは」
「どなた……名前か?………そうだな。自己紹介がまだだった。我が名は──」
我が名はなんだろう。
かっこいいやつ……シャドウ、は絶対だめ。著作権とか色々あるだろうし……従魔をしたがえる人だから……いやもう思いつかないから被りさえなければなんでもいいや。
「──虚無」
裏社会を掌握する。裏を握れば表だって操り安きこと山の如しだ。
だから、久しぶりに使うぞ?
(──鑑定)
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城下 美玲
職業:剣士 軍師 商人
称号:転移者 恩寵視認権 豪商 孔明 頭領 剣豪
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(まじか)
これは完全に当たりだ。
やはりこの世界はおれに甘い。
「単刀直入に言う。我が配下になれ」
恐らく首を縦には振らないだろう。
こいつは転生者。
名前を見る限り日本人の可能性が高いので、日本について話せば転移者もしくは転生者である事は納得させられるだろう。
しかし、こいつが日本について知っているということは、俺の持つ切り札である(この世界から見れば)未来科学の知識を対価にする事は不可能。
さて、どうしたものか……
あ、鑑定された。魔力を使用するスキルならマナバリアなどを使った魔力の反発で防げるが、魔力を使用しないスキルには効果がない。
鑑定対象に相手の鑑定の熟練度では見破れない偽造を施すしかない。
名前以外を消しておこう。
あえて隠蔽いていることを悟らせる。
「はい」
……ん?
「ほう。何も聞かなくていいのか?」
「何も聞かなくてもあなたと私の実力差では、その場しのぎだろうとなんだろうと従うしかないわ」
「そこの奴隷や部下を使って、制圧を試みるのは?」
「やってみようかしら?」
「構わん。殺さないし、傷も付けないと約束しよう」
「なら……そいつを取り押さえて!」
瞬間、おれは殺気を放った。
「う……」
「あ……くっ、……」
黒服の護衛が2人。そして天井裏に潜む忍者みたいなやつが1人。
護衛の2人は奴隷か。
天井から飛び降りた黒装束に身を包んだ女が背後から首筋を狙って剣を振る。
「……動けるか」
右腕で剣を持つ腕をかち上げ、右の手刀を首筋に添える。
「これで、お仕舞……ッ!」
むにゅん。
(むにゅん?)
首筋に添えた右手が女の胸を掴んでいた、というか掴まされていた。以外にデカい。
有無を言わさず誘導された意識と視線。
そこに生じた圧倒的な隙。
女が目を狙って左から剣を一閃。
殺気が途切れ、倒れていた護衛達が足を狙って短剣をを投擲し、すぐさま起き上がって剣を構え左右から突っ込んでくる。
既に女の剣が目の前に迫っている。スキル無しで避けられるか……?
カァン!
仮面が落ちた。3人の武器をたたき落として、今度こそ終幕。
「よくやった」
「そんな……!?」
「さて。もういいか?」
ジョーカーを振り返る。
力の差は存分に見せられただろう。
「ぁ……オホン、分かりました。もう結構です。あと、そろそろ彼女の胸を離しませんか?」
「えー……じゃあ、3人を下がらせてくれ」
「下がって」
3人が出ていくのを確認して、口を開く。
「これより先、嘘は通じない。慎重に言葉を選べ」
見透かす魔眼。
対象は、城下美玲の服に隠された、ではなくポーカーフェイスの裏に潜む言葉の真偽。
嘘さえつかなければ、考えさえ読めれば人はある程度信用出来る。
さらに、命を握り四六時中監視出来るなら、肉親へのそれより深く、強固な信頼を置ける。
一方通行ではあるが、この世で1番固い絆だ。




