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進化論~レベル式進化説  作者: ツタンカーメン
3章 迷宮都市
45/65

45 迷宮

(フニ。今日の目標はおれじゃなくてお前のレベル上げだ。という事なんで、体を伸ばして全身鎧になってくれ)


黒い流体金属が肩から手、背中、脇腹、へと伸びていく。

数秒後にはスライムの鎧……いや、スライムスーツと化したフニの中にすっぽり飲み込まれた。


(汗かいてたらごめんな)

《むしろ……いえなんでもないです》


服の上をコーティングするスライム……ダメだな。


(やっぱり服の内側入ってもらっていい?)

《!!??》


白スーツを覆うスライムがビクッと硬直し、棘が飛び出す。


《あ、はい》


服の内側に何か入ってくるというのはかなり危機感を覚えるべき状況で、実際くすぐったい訳でもないのに少し体が強ばる。


《出来ましたぁ……》

(別に下着の上からで良かったんだが……汗臭かったらごめんな)

《残念ながら、スライムに嗅覚はないのです……》

(なら良かった)


理想は俺がフニの身体を動かす事だが……残念ながらおれの運動神経とフニの筋肉(?)は繋がっていないので、おれの指示と現実の動きのタイムラグを限りなくゼロにするのが目標だ。


そして、もうひとつはおれがフニに身体強化をかけられるかどうかの実験。


回復魔法や支援魔法のように他人の体内で仕事をする魔法はいくつか存在する。


(お前に魔力を流す……抵抗するなよ)

《はい!》


むう………だめだ。魔力が上手く伝わらない。

おれの魔力操作精度をもってしても無理か。


邪魔しているのは…フニの魔力?違うな、"核"だ。

弱い魔力では押し返されるし、魔力を強めればフニが危険だ。


(なあ、分体の方でコレできない?)

《出来ますが……何故ですか!やはり私はご主人様のお役に立てないのですか!》


ひえ、キャラが豹変した。


(違う。今から試すのはお前の鎧としての運用法だ。つまり、このおれの生命に届くかもしれない攻撃を受ける事になる……おれは、万が一にも、お前に死んで欲しくないんだよ)


いくら声が女の子でもコミュ障治りかけのおれはキョドったりしないのだ。

全ての可能性について熟考し尽くした智将の様に、明快で説得力があり、ついでに相手を喜ばせる言葉を放つ。



《そ、そんな……私なんかの……》


するとこうなる。


(やってくれるかい……?)

《はい!やります!なんでもやります!》


うん。魔力が良く通る。

回復魔法でも心臓──つまり身体中を巡る魔力の源泉付近は治療しにくいと言うし、質の違う魔力同士は反発する。

吸血鬼が心臓を刺されると死ぬのも心臓から溢れる再生の魔力が無くなるからで、真祖くらいになると心臓をとりに行くと武器にかけた魔法が消えるというのも魔力の反発のせいだ。


スライムにとって、心臓に当たる核が無ければ魔力の反発はない。


《でも、これだと体の操作が上手く行きません……使えるスキルも減りますし》

(問題無い。これなら多分、おれが動かせる)

《ひゃええ!?ウソ……っていうか、それじゃ私の仕事ないじゃないですか!》

(いや、ある。フニの長所は動体視力と観察眼、思考の速度だ。それを活かしておれやフェル、ホムラ達のサポートをしてくれ)

《むう〜……まあ、確かに私は戦闘力が低いし、戦いでお役に立てることはないですけど……》

(そう僻むな。やって欲しいことはまだまだあるんだ……それに、ぶっちゃけ戦闘とかおれ一人で大抵の敵は片付くからな)

《そんな!主!我は、我等は不要ということですかァァァァ!》

《五月蝿いです……頭の中で叫ばないでください》

(そう言ったか……?仮にそう言ったしても、今のお前にすべき事はなんだ?抗議か?嘆願か?)

《レベル上げであります!行って参ります!》

《今の口調も最高ですなぁ……》

(そう言えばフェル。魔石はどうしている?戦闘の邪魔になっているのなら捨ておいても構わんが)

《その口調でいくのですか、ご主人様!》


フニは黙っていなさい。


《道中で配下にしたシャドウウルフに仕舞わせております……階層移動は出来ませんが、我の脚なら強敵ばかりと戦うよりも……そこそこのものを多く狩る方が経験値効率がいいかと》

(うむ。だがダンジョンモンスターはテイム出来ないからな)

《承知しております》


おれはフニの分体の制御練習。その間フニは……


(スライムって合体できただろ?)

《はい。合体というより取り込む感じですが》

(レッドスライムとブルースライムが合体すればデュアルスライムになる…?)

《はい。一体二体取り込む程度ではそのままですし、スライムは知能も最弱なので合体するスライムなんて滅多にいませんから》

(取り込む際に抵抗される事とかはあるのか?)

《ありますね》

(じゃあ、これからスライムを取り込みまくってもらう。出来るか?)

《できます!》

(じゃあいってこい。何かあれば連絡しろ)

《了解です!》

(ユニークがいたら教えてくれよ)


他のスライムを吸収してもらう。そのためにスライムが好む湿原に来たのだ。


テイムではなく吸収ならダンジョンモンスターを対象にできる。


スライムの最大の長所は、対象をスライム族に限って言えばファンタジー小説よろしくスキル強奪……というかスキル吸収が可能な点だろう。


その他、食事による経験値の摂取や物理攻撃に対する極端に高い耐性など……


"合体と言うより吸収"ならばテンプレ的な、捕食/強奪系チート。


しかし、そんなチート生物でありながら尚、スライムは底辺生物でしかない。



吸収によるスキルの統合と捕食による経験値の奪取を使いこなせない知能の低さ。

そして、どうしようもない弱さ。


仮にスライムを従魔にし、何百何千ものスライムを吸収させたところで、レベルが上がらなければHPもMPも大して上がらない。


経験値を稼ぐには討伐に大きな貢献をする必要がある。

スライムの弱さでは不可能だ。



それでも、100年ほど前に一度、帝級に至ったスライムの記録が残っている。

あらゆる魔法を使いこなし、鋼鉄の体から酸を吐き国1つを飲み込んで消えたという。



湿原を走り抜け、魔物を倒しながら階段を探して迷宮を少しずつ降りていく。





75層。


白い風が流れ、首のない猿の胴体が倒れ込む。


「んー……まだ自由自在に形状変化出来ないから、殴るしかないんだよなぁ……」


称号:拳聖を持っているのに徒手格闘系のスキルを一切持っていないといういろいろ意味わからんことになってはいるが、高ステータスからくる筋力で思いっきり殴れば今のところどんな敵もワンパンで終わっている。


殴ると言っても、拳に装着した金属塊で殴っているわけで素手ではない。


「手首から先を剣にしたいけど……出来ないんだよなぁ」


刃引きされたおもちゃの剣みたいになっている右手を見てため息をつく。


《ご主人様ー、何故かどんどんレベルが上がっていくのですが》

(お前の分体で撲殺してるからな。予想より譲渡率は低いが……そうだ。もっと人数を集めれば……)

《なるほど!ありがとうございます!最後の方聞き取れませんでしたが》




「できん!」


先が丸まった剣状の何かで猿を殴る。


「なんで!」


ボスも殴る。


75層に降りてから階段を見つけていない。

つまり、大抵の迷宮で5層ごとに見られる、ボス部屋の奥に階段があるパターン。


宝箱を開けて飛び出した毒針をキャッチして収納し、本命の中身も一応収納。


精力剤……さすがオークキング。ドロップアイテムの肉と魔石も拾っていこう。

まったく、食べ物を地面に置くんじゃありません。

さて、訓練再開。


……………………



………………



…………



……




《主!主殿ォォォォオ!》

(なんだ)

《ドロップアイテムと魔石が……もう持ちきれませんッ!》

(捨ててもいいと言ったはずだが)

《せっかく、せっかく荷車を作り、壊れては作り直し壊れては作り直して運んできたものを捨てられる筈がございません!》

《主、我のシャドウウルフももう限界らしい……46層に、来て頂けませんか》

《我は34層に居ます》

《私は50層です。ご主人様、もうすぐ潜って20時間になりますが》


潜るというのは迷宮に入るという意味を持つ動詞で、20時間とは一日の6分の5だ。

で、あるからして今は夕方の4時……


(ん?何時間だと?)

《20です。もうすぐ丸一日経ちますが》

(そうか。ならば潮時だな……帰るぞ。各自、あまり動くな。回収に行く)


ドロップアイテムと従魔たちを回収し、帰路に着く。


「転移」


帰路終わり。


門を通らずに出た以上、門を通って街に入るという事はリスクを伴う。


転移魔法使いは貴重な上、犯罪に使われれば厄介極まりないからだ。

転移使いと知られれば目をつけられること間違いなしだ。


下着と白スーツを収納し、トランクスと和服を出現させる。

身体に纏った状態で出現させれば変身完了だ。

スーツが消えてから和服をが出現するまでのコンマ数秒間の間は全裸だが、余程の動体視力が無ければ視認すら不可能だろう。

ましてやこの薄暗い路地裏では尚更だ。


さて、表用スキンに戻ったことだし……


(娼館に行きます)

《ご主人様!どの"しょうかん"ですか?》

(大人の階段を登りつめるほうのしょうかんです)

《そんなァァァァァ!私というものがありながらァ……フェルさん!フェルさんは悔しくないんですか!?》

《我は別に……主は桁違いに強い雄なれば雌の数十数百囲うのも道理……我は、我を1番にしてくれるのなら構いませぬ》

《ェェェー……》

《同率一位でも構いませぬが……》


当然この世界でも性病は存在するので、安い娼館に行くのは避けた方がいい。

それから、最高級の娼館ではマッチング時に面白い制度があるらしい。

客は、店に入って酒を頼む。好みの外見をしていれば娼婦が隣によってくる。そのまま少し話をして、マッチング完了。

客は好みでないなら断ることも出来るが、誰かを選ぶことは出来ない。

漢が試されるんだ…………と、数年分の貯金を引っさげて意気揚々と都市へ赴いた村の男の自慢を聞かされた時のアレン(当時6歳)の思考ときたら……

彼はその時ゴブリンは何故人間の女を攫うのか考えていた。

種族が違っても交尾するのか、と。


しかし世の中何が役に立つかわからないものだ。


(男が試される……か)


和服を収納し、適当な服を着る。そこらの平民よりは質がいいが豪華とはいえない普通の服だ。

つまり認識阻害がついていない服だ。


お兄さんよってかない?だとかしゃちょさんしゃちょさん遊んでいかない?という客寄せの声を無視して、お目当ての店に入る。


ヘメロカリス。


王都や歓楽街程ではないが、ココ迷宮都市は帝国どころか四大国全体で見ても5指には入る巨大都市。

そんな場所のトップをはる娼館である。



フロアの奥では合奏団が優雅な音楽をかき鳴らし。

男達が無言で酒を飲み、その間を露出は少ないが体型がハッキリわかる服を着た美女達が歩き回る。


「お飲み物をどうぞ。ワイン、ウイスキー、シードル、ブランデー、リキュールが御座います」

「ブランデーを頼もうかな」


ブランデーってなんだろう。


「かしこまりました」


そのままフロアの中心の石像の下へ歩く。

何故って?もちろん、どこからでも見えるようにさ!


「今晩は、お兄さん♪」


よっしゃぁぁぁあ!

まずは第1関門突破。すごい美人だな。

カグヤやロザリアに勝るかは分からないし劣っているかも分からないが、かなりいい勝負なのでは無いだろうか。


「こんばんは、お姉さん」

「あら、すっごいイケメン!アイラが声かけるなんて珍しいじゃない。ねぇねぇ、私エレミアって言うんだ〜。よろしくね」

「よろしく、エレミアさん」


増えた。というか、まだ増えそう。

今、こちらに接近している3人の魔力を感知した。


それにしても話上手な人達だ。

こちらも言葉を返す時会話が続くような返しをするが、彼女たちとの会話は面白い上に話が続く。

まあ、人数が多いから話のタネが尽きないというのもあるんだろうけど。




「あはは、おっかし〜。レイジ君話し上手だね!」


相手の話を聞くより話す方が楽しいので、彼女達に多く喋るよう誘導しているつもりが気がつけばかなり喋らされている。


最終的に7人に増えたところで、部屋に連れ込まれた。

これ、お金大丈夫か?

単純計算で相場の7倍なら大丈夫だが……尋常じゃない出費になるぞ。


まあいいや。おれは、好きに生きると決めたんだ。



10時間前、宵闇亭。


「レイジ〜?いる〜?朝ごはん出来たわよ〜?」


まな板と包丁を持ったままのエプロン姿のカグヤが扉に向かって声を上げる。


当然、無人の部屋から返答が返ってくることは無い。


「お〜い……あれ、空いてる?……入るよ?寝てるのかな……」


目に入ったのは綺麗に畳まれた布団と燕尾服。


「これ……」


手に取ると、何かが転がり落ちてチャリン、と音を立てた。


「これって、部屋の鍵……」


空いていた鍵。

まるで使用前かのように、綺麗に三つ折りにされた布団。

畳まれて置いてある燕尾服(貸した服)

部屋の中に置かれた鍵。


……確か、1ページ目すら埋まっていない帳簿には……

彼の、宿泊予定日数は……


「…………嘘」












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