42 勇者召喚
先程の魔力……まず間違いなく禁呪、禁術の類だろう。
そのような邪悪な手段で絞り出された魔力は、『無属性』だ。
この世界では使えない。
ただ一つの例外を除いて。
それは魔道具や魔法陣の発動。
その中であれほど膨大な魔力が必要となるのは……
召喚か創造。
世界の壁を越えて呼び寄せる『召喚』と無から有を産み出す『創造』。
あれほどの魔力を使えば……
召喚でも創造でも、何かとんでもないものが出てくるだろう。
単純に巨大なもの?
強大な力を持つもの?
それとも未知の、恐ろしく高い技術が詰め込まれた機械とか?
文献によると、"勇者召喚"あるいは"魔神召喚"と呼ばれる儀式がある。
勇者と呼ばれる人間がいたのは知っていたが、召喚という手段があるのか。
自分が転生タイプだったからすっかり召喚タイプはないとおもってた。
(……ま、いいか)
「おい、レイジ……さっきの……て、何俺の服勝手に着てんだ。つーかイケメンだなおい」
「あれ、オッサンも感じた?」
「ああ……なんだ、あれは」
「禁呪だと思うけど」
「禁呪……?悪いがおれは魔法はさっぱり分からねぇんだ……禁呪ってのは?」
「禁呪ってのは生物から魔力を絞り出す呪いの事だ(本に書いてあった)。その魔力を用いて魔法陣や魔道具を発動させることを禁術という……(本に書いてあった)。今回のは……そうだな、多分10万かそこらの生贄を使ったかもな(適当)。勿論人間だ。人間以外では暴れたり魔力が少なかったりと色々厄介らしいからな」
「魔力を絞り出す……?だが、10万かそこらでは、あれほどの魔力は……」
「禁呪の仕組みは分かってない。ただ、『この様な過程を経てこの様な順にこの様な儀式を行えば』という事だけが伝わってる。勿論極秘にだが。魔力を使うとさ、いつか空っぽになるだろ?」
「ああ。あのしんどいやつ」
「魔力が無くなって、HPが残る。それを超えてさらに魔力を使うと、今度はHPが減ってくだろ?」
「ああ。それで死んだ奴見たことあるぜ」
「じゃあHPが無くなったら?」
「死ぬだろ、そりゃ」
「HPが無くなって生物は死に──」
ここからはおれの推測だ。何故禁呪はあれほどの魔力を絞り出すのか。
「──魂が残る」
「……おい」
「肉体は物質だ。魔力にはならん。……なら、何が魔力になるんだ?おれの推測だが……魂だ」
「この話は……」
「いいや、まだだ。その魔力はどうなった?都市を護る結界か?敵国を滅ぼす殺戮魔法か?……それとも、勇者召喚か?」
「……もしくは、魔王召喚かなにかか……とにかく、何であろうと」
「そうだ。……荒れるぜ、世界が」
倒置法。何かしら重要なことを言う際に用いればカッコイイというのは本当だったようだ。
今のおれ最高にカッコイイ。周囲の薄暗さも良い仕事をしている。
魔力とは、軍事力だ。
個人の所有する暴力。それの属する組織。
結界に使用すれば防衛コストを削減し攻撃にまわせる費用や人員が大幅に増える。
殺戮の魔法など言わずもがな。
強者を召喚すれば、どう転んでも大陸中を巻き込んで歴史が動く。
帝国ですら禁呪の詳細は把握出来ていないのに……どこの国だ?
王国か?法国か?公国ではないだろう。
(しかし、10万か……)
地球では10万人という数字は小さい。
それでも、死者10万人は異常な程多い。
70億の人間を擁する地球でさえ。
ここではどうだ?
帝国1000万。
死者10万人。
強大な魔物が現れたりなんてすれば簡単に国が滅ぶような世界では?
多いに決まってる。1000万が1000億でも1000兆でも関係ない。
10万殺せば悪だろう?
探し出していつか殺そう。
少しだけなら言い訳も聞いてやる。
最も、中華人民共和国なみに広い人類生活圏でたった数人の犯人探しが上手くいくならだが。
10万という数字も適当だし。
生贄が消滅するまでにどれほどのエネルギーが取れるかは分からない。
魂をすり潰しているとしても、魂1つが持つエネルギーが分からない。
それでも、数百数千の生贄ではきかないだろうと心のどこかで感じていた。
▽
「よくぞいらした。勇者様方」
玉座に腰掛ける王がそう口にする。
「陛下……まだでございます」
「む、そうか?だが、凄い光ったぞ?」
「確かに凄い光でしたが……なんとなくですが、恐らく5分はかかるかと……」
「5分……微妙だな。なにかするには短いが何もしないには少し長い」
「おっしゃる通りで」
「トイレとか行こうにも……万が一を考えると……『よくぞいらした。勇者様方』は絶対に必須だしな」
「それが無ければ格好がつきません」
「そうだろ?それに……これは我が国民11万の命と同義。最初から最後まで見届けねば」
「陛下。気にかけるなとは申しませんが、上に立つものは大事の前の小事を切り捨てる非情さも必要ですぞ。それに、犠牲となった彼等は犯罪者の他は四肢の欠損した奴隷など、生きる希望を喪った者達。これも天の運命でしょう」
「分かっている。だが……」
1週間前の事だった。
王室お抱えの予言師によって、大災厄が予言された。
彼の予言は知りたいことが何でも分かるわけではなかったが、予言すればその全てが的中した。
大厄災とは、魔物全体に影響を及ぼす謎の突然変異である。
進化をもたらし、全ての魔物──人間に従属していない全ての魔物が強化される。
兵級は騎士級に。
騎士級は将軍級に。
王級は帝級に。
かつての大災厄で、史上初めて確認された帝級の進化形態は、神級と名付けられた。
それが数年続く。
そんな時に大発生でも起これば、世界は滅びる。
「何故今なんだ……なぜ、私が……と考えてしまうんだ」
「それが人というものでございます」
640年起こっていなかった大災厄が、何故今になって?
様々な技術が失われ、英雄は居らず人間の戦闘能力が軒並み下がった今になって?
「予言では、2年と9月のうちに、だったな」
「その通りでございます。故に、勇者召喚の儀を行いました……勇者と言えどもその力、召喚してすぐは一般兵程度といいますから」
「明日大災厄が起こるかもしれないという時に……平和なのかもしれない世界から、こちらの都合で呼び出しても良いのだろうか」
「陛下。勇者がいなければ世界は滅びます。これも、大事の前の小事でございます」
「そうだな。さて、そろそろか……」
一際激しい光があたりを包み……
「よくぞいらした。勇者様方」
「陛下、まだのようです」
「一体いつ来るんだ!」
「それは……なにぶん私も、初めてなもので」
「わざわざ玉座運ぶの大変だったんだぞ……」
待つこと5分強。
「 ってて、ここは……?」
「……なんか、多いぞ」
「…ですね」
「オホン、よくぞいらした。勇者様方。…………いきなりのことで混乱しているだろうが、まずはこちらへ。食堂に案内するので、そこで説明を聞いて欲しい」
「あぁ!?なんだ、てめぇは!」
「高嶋!下手に彼等を刺激しないでくれ」
「んだよ、天原!」
「……よい。剣を納めろ」
近衛騎士達は優秀だが頭が固い……直ぐに剣を抜いて威嚇するのは頼もしい時もあるが、正直面倒臭い。
「剣?その長さ……5.5センチは軽く超えている。まず間違いなく銃砲刀剣類所持等取締法を違反している。許可を取ったのか?取ったとして、20人も一同に会す事など……それともコスチュームプレイか?いや、今の音は確かに金属同士が擦れ合う音だ。しかしそれでは先程の」
「ねぇ、思考が纏まるまではブツブツ言わないでくれる?」
「あ、すいません」
人数は……36か。多すぎん?
この集団の中核となるのは……アマハラと呼ばれた彼か?
タカシマと呼ばれた少年は我が強そうだ。
前髪が長い眼鏡の男は頭脳派の雰囲気を醸し出している。
「この騎士達が君達に危害を加えることは無い……例外はあるが。とにかく、我らに害意は無い。彼等は私の近衛だ」
「貴方は?ここがどこで何故我々が連れてこられたのか等説明して頂けますか?」
「椅子も何もないがここでいいのか?私としては、勇者様方を立たせたまま話をするのも、地面に座らせるのも控えたいのだが」
「先程も言っていましたが勇者様方とはどういう……いえ、そういうことであれば、よく分かりませんが先に食堂に移動しましょう」
「助かる。案内するので後を着いてきてくれ」
「分かりました。皆、移動するから着いてきてくれ」
「なんでてめぇが仕切ってんだァ?」
「高嶋……いまそんなこと言ってる場合じゃないだろ?」
食堂への移動は、会話もなく静かで寂しいものだった。
「さて、自由に座ってくれ。説明を始める。まずは自己紹介が先かな?私はコルト王国の王、ミカエル・コルトだ。そっちの鎧姿の者達は私の近衛、そこの髭のジジイは宰相のホフマン・クロウだ。君たちは?」
「俺達は南森付属第二高校の二年生です。ここはどこですか?」
「コルト王国の王都、サンスクルドにある我が王城だ」
「コルト王国……?聞いたことがないな……」
「すみません。ここはなんという世界ですか?」
「ここはアースと呼ばれる世界だ。君たちのいた世界とは異なる世界だよ」
彼等は好奇心旺盛……いや、いきなり見知らぬ場所に連れてこられれば当然かな?情報収集に熱心だった。
私の言葉を鵜呑みにするものもいれば冷静に真偽を確かめようとしている者もいる。
まあ、顔に出ている時点でまだまだだな。
説明に1時間ほど費し、ようやく質問が途切れた。
「最後に、何故君達を呼んだのかだな。今、世界は未曾有の危機に瀕している。大災厄と呼ばれる危機が2年と9月……千日以内に起こると予言された。先程の話を聞く限りでは君達の世界に予言はなく、自称予言者はいてもその信憑性は全く低いとの事だが……この世界は違う。君達の世界はない"魔法"があり、万能ではないが未来を見通すことさえ可能だ。いいか、大災厄は600年以上起きていない。何が起こるかわからんのだ。故に、世界を守る希望として君たちを呼んだ。勇者召喚……強大な素質を持つ人間を異界より引き入れる術でな。すまないが帰る方法は判明しておらん」
「600年……日本でいえば室町の南北朝時代か。それなら武器や技術も進化しているのでは?」
「逆だ。今の我々は、先祖達が開拓した安全で弱い魔物しか出ない土地に籠り生活している。魔境の強い魔物達と戦うことが日常だった昔より、戦闘能力はむしろ下がっている」
「オイオイ、それよりなんだって?帰れないとか吐かしやがったか?」
「その通りだ。君達の事情を無視してこちらの都合で呼んだのは悪かった。が、こうするしか無かった。それに、この世界は1000年以内に滅びる……何もしなければな。そんな世界で帰る術を持たない君達は何をする?刹那の快楽を追い求めても良いし、私の言葉を虚言と思うのであれば好きにしても良い。しかし、どうやら君たちの世界は非常に平和だったようだ。何もせず、才能を腐らせて……なんの力も持たない、常識もない、そんな君達が生きていけるほどこの世界は甘くない。衣食住は保証しよう。ここで訓練を受けて、人間を守る矛になってくれないか?それに………強い力というのは、究極的に理想を叶える道具だぜ?」
王がパチンと指を鳴らすと、36人のメイドと執事……ご丁寧なことに、女子の人数分のイケメン執事と男子の人数分の美人メイドが食堂に入ってきた。
(あからさまね、これは……手を出すとこの国に縛られたりするんだろうけど……まぁ、我慢できない人が出てきて当然だろうし……困ったわ……)
「暴力でもいい、権力でもいい。財力でも知力でもいい。法を犯しても、国すら超える力を持てばいい。そうなれば美しい女も、山と積まれた財宝、高い地位も究極の美食も…………──」
大丈夫かそんな考えで。
「──思いのままだ」
普通ならバカバカしいと一蹴するところだが。
ホンモノの王様。しかも魔法があるファンタジー異世界の。
両手を広げたダンディなオジサンのニヤニヤを見ていると、不思議と現実味を帯びてくる。
ゴクリと誰かが喉を鳴らした。
俺は、と、誰かが呟いた。
最初の1人がやりますとと答えるまで、さして時間はかからなかった
「僕はやります。異世界の人間だろうと、目の前で困っている人を見殺しには出来ない」
天原悠斗。文武両道のイケメンだが、思い込みが激しい馬鹿。
そして、正義感が強く向こう見ずな馬鹿。
やはり馬鹿は馬鹿か。
「俺もやるぜ」
「僕も」
この流れには逆らえないか。
俺も、私もと声を上げるクラスメイトの中にしれっと混ざる。
「……私も」
くだらない。
こんな時にこんな馬鹿みたいな事が起きるか?
乙女の傷心にもう少し配慮して欲しい。
(ねぇ…なんで死んじゃったの?お従兄ちゃん)
3日前の事だった。家の近くの交差点で、keep outと書かれたトラバリケードテープ(?)に囲まれた曲がった電柱とその根元で凹んだ車、救急車のサイレンと警察車輌を横目に帰宅して、その数分後。
『八神零時さんのご家族の方ですね?零時さんが交通事故にあいました』
何を言っているのか分からなかったが、何を言われているのかは分かった。
混乱する頭でお母さん来て、と言い電話を代わってもらった。
搬送先の病院で、死亡確認がされたのはその2時間ほど後の事。
することも無くて学校に来たら、こんな事になるなんて。
「それでは、ステータスの測定を行う。自らの才能に合った武器、魔法の訓練を武器ごと、魔法属性ごとに行う。今日は色々なれないだろうから、明日からだ。食事の時間等は追って知らせる」
手のひらほどの石版。魔力を込めればステータスが表示されるらしいけど……
「わ」
石版に手を触れた瞬間、何かが吸い取られる感覚とともに表面に文字が刻まれた。
別言語なのに、不思議と読める。
「どうだった?──」
キラキラした笑顔で天原が話しかけてくる。
たしかにイケメンだけど、何も感じない。
「──八神さん」
私はお従兄ちゃん一筋だから。




