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進化論~レベル式進化説  作者: ツタンカーメン
3章 迷宮都市
41/65

41 図書館

「いい?レイジ。あなたは非常識過ぎるわ。ここに来る前はどこに居たの?」

「森です。すいません」

「森……?まあいいわ。レイジは頭も悪くないし観察力もある。でも知識が偏り過ぎてるわ。なんでかは知らないけど……とにかく、今から図書館に行くわ。常識を学んでちょうだい」

「はい。すいません」


何故おれは正座をさせられているのだろうか。

因みにマジックハンドで浮いているので服は汚れていないし膝も痛くない。



時は少し遡る。


カグヤさんの案内で迷宮都市を歩いていた時。


何か買おうとすれば相場くらい頭に入れておけと怒られ、絡んできたチンピラの腕をもぎ取ってやろうとすれば住んでる街の貴族の顔くらい覚えておけと怒られ、アイテムボックスから色々出せば素材の希少度と魔物の強さを覚えろだとかそんな貴重なものをホイホイ出すなだとか怒鳴られ……



つまり常識の欠如が発覚したのである。

それもこれも完全に馬鹿女神(笑)のせいでおれに非は無い。全く無い。


常識云々は実体験もふまえて記憶として頭に入っているはずなのだ。



「行くわよ!ほら!」

「うーん、まあしょうがないか……」





「入館料金貨1枚と銀貨1枚でございます。当図書館の蔵書を汚したり破損したりした場合を除き、お帰りの際に金貨1枚をお返しします」

「何故こっちを見るんだ、カグヤ」

「今日財布置いてきたの……」

「じゃあおれが払うよ。うん、元から払うつもりだったけどね。全然気にしてないし」

「ゴメンね?」

「いいっていいって。おれの為に付き合ってくれてるんだし」


入館料が10万もするのか。本を汚したりしなければ返ってくるとはいえ、一般庶民にはあまり馴染みのない場所なのではないだろうか。




「はい。じゃあこれ全部読んで」

「……全部」

「ここに書いてあることを全部覚えたら合格よ」

「……これ全部、一般常識?皆覚えてるの?50冊くらいあるけど」

「そうね、全部覚えたら知識人の領域ね」

「じゃあ全部覚えなくていいじゃん!?」

「つべこべ言わない。はい、始め!」

(ていうか、教えてくれてもくない?世界の声ちゃん)

【聞かれれば、答えられる範囲で回答します。いちいち聞くのが面倒なら覚えればいいのです】

(はいはい)


まずは地図。帝国全土と周辺国について、山や谷、川、都市の位置などが記されている。

この大陸を、北は大山脈、南は1本の川を区切った地図でもある。

帝国、王国、公国、教国の四大国と、小さな国々によって数本の線で区分けされている。

オルトリア帝国は北西。その南に公国、東に教国が位置し、王国──恐らくアレンの故国であろう国は、南東の隅。

じっくり見れば、5分程度で覚えられるだろう。

あとは……帝国史、帝国神話、帝国都市の特産品、最強武器トップ100、最硬防具トップ100、最強ランキング100人間級、最強ランキング200無差別級、スキル一覧……


「なんだこりゃ……なあ、最強武器トップ100とか覚える必要あるの?」

「まあ、覚えて損は無いわね。どうせ覚えきれないだろうけど」


ニヤニヤしてるのがムカつくな……いいだろう、全部覚えてやる。


「いや。覚えれるさ」

「ふーん、すごい自信ね?」

「ああ。おれは"天才"だからな。なんなら何か賭けてもいいぞ」


地球に居た頃から頭も運動神経も良く、こちらに来てからは物語の中にしな出てこないような化け物(地球人主観)を1人で倒したりしてきた。


その経験が"奢り"に繋がり"傲慢"を産む。


自分は特別なんだと。選ばれし極少数に入っているのだと。

奢りや傲慢は得てして"油断"を産むが、それは自然の摂理。

強者と相対した弱者に与えられた、一欠片の希望。

HPや攻撃力だけで勝敗が決まるなんてつまらないじゃないか。

だからそれでいい。それがいい。


油断が強者に死をもたらす。

()()()()()。だから言える。

乗り越えたと。


おれが特別で、何か大きな存在に選ばれた強者なら、何故死んだ?

何故スケープゴートの熟練度が上がっている?死んだからだ。

死んだ原因。それは……


『どうせ生き返る』『この程度の敵ならコレで十分』『どうせ無属性魔法を使えば瞬殺できる』『この位の攻撃なら受けても大丈夫』『1、2回死んでも、勝つのは自分』『どうせ1回死ねば毒は消える』『暇だしちょっと死んでみるか』

…………

……


そんな考えがあったから。

それが油断。

そういった類の油断は、本来であればたったの1度で人生に幕を下ろすことになる。


が、[スケープゴート]があれば。


油断の恐ろしさを体に刻みつけたまま生還したなら。


きっと油断など二度としないだろう。


乗り越えた。…………いや、これも油断か?

いやいや、こんなお遊びみたいな勝負に本気で臨んでいるんだから、油断などしているわけがない。


「じゃあ、出来なかったらキャサリンさんのお店のご飯奢って?」

「いいぞ。ならカグヤも何か賭けてくれよ。大金貨1枚位の」

「じゃあ1字1句違えずに覚えられたら、何か一つ言うことを聞くわ」

「大丈夫かそんなこと言って」

「……ホントに覚えるつもりなの?この本の山全部を、1字1句?」

「出来るさ。後悔するなよ?」

「帰るの遅くなったらいけないから、夕方までね?」

「いいよ」


出来るから出来ると言う。100%出来るなら、リスクはリスクでなくなるのだ。

もっとも、絶対なんてものはありはしないのだが。

この世界においては、人が死ぬ事すら絶対ではない。



夕方まで。仮に6時までとすれば、残された時間は約5時間。

つまり18000秒。

覚えなければならないページ数は、各冊200ページとして10000ページ。

各ページに2秒かけられない。


先程の地図帳について、5分で覚えられると言ったが……ページ数でいえば3分程度で覚えなければならない。薬草や魔物について等、既知のものもいくらかあるだろうが、絵や図を覚えるのは時間がかかる。


念の為1ページ1秒として、見開きで2秒。[真眼]補正の動体視力なら、なんとかなるか?



「頑張ってね〜」



1、2、1、2、1、2…


(瞬きが……ページを捲る瞬間に合わせればいいのか……)


「へぇー……魔神教団……災厄と厄災……やっぱりいるのかそういうの……って、ダメだダメだ」


最強ランキングだとか手を出してはいけない集団トップ20とか厨二心をくすぐられる内容のものは罠だ。

1秒で読めるページで挿絵をぼーっと眺めさせられ、どんな闘い方なんだろうと空想し、時間を喰う。


覚えるだけ。興味を持つ必要はない。覚え切った後に想い返せば良いのだから。


………………



…………



……



「おーい、そろそろいい?」

「ああ。覚えたぞ」

「ふーん……」


無表情でページを繰っていた手が止まる。


「じゃあ、最強武器No.37は?」

「竜槍アルハマグラ。不壊と超鋭利、貫通が付与されていて、不壊──"頑丈"系の最高級エンチャントを施された数少ない武器の1つ。レプト迷宮の75層で発見された」

「じゃあ、この街周辺の迷宮について教えて」

「まず、さっき言った西の森のレプト迷宮。爬虫類系……低層ではリザードとかトートフロッグ、スモールボアなんかが湧く。もちろん下に行けば行くほど敵が強くなり……ワイバーンが確認されていることから、最終的には竜種や龍種が出るとかいう噂がある。因みに2年前に大発生を起こした。南のトゥーン迷宮はアンデッド系が湧いて、確認されている最強種はドラゴンゾンビ。北の試練の迷宮は、1層1層が超広大で、層を繋ぐ階段も複数ある。出現する魔物は全ての種類。通常、出現する魔物の種類はかなり限定されるけどここではそうでないことや、大発生の記録がないこと、宝箱が発生しない事、各階層に複数の迷宮入口への転移陣があり、危険度が低いことから試練の迷宮と言われるようになった。普通、冒険者達は修行や訓練、腕試し等を試練の迷宮で行うことが多い。都市からかなり近い所にあるため行き来しやすい」


因みにドラゴン、竜、龍は、強さはドラゴン<竜<龍となる。

ドラゴンは翼を持たない竜、いわゆる西洋龍から翼を取ったもの。

竜は西洋龍、つまりヨーロッパの神話や伝承に登場するようなタイプの竜。

龍は東洋龍。中国の伝説上の生物である龍。

ゾンビになればそれぞれドラゴンゾンビ、屍竜、屍龍と呼ばれる。

因みにスケルトンになればスケルトンドラゴン、骨竜、骨龍である。


「……じゃあ、冒険王アレクサンダーの38ページの5行目は?」

「……えっと、確か……『のだ。私は死を覚悟した。仲間を見送り、彼らが帰還するまでの時間を命を懸けてでも稼ぐ為なら命さえ惜しくはない。そう思っていたはずだった。ところがどうだ。しっかりと構えているはずの私の脚は震え、剣を持つ手は垂れ下がり、溢れ出る涙に目が霞んでいた。笑い、叫び、自覚した。私にとって死は、例えようもなく恐ろしいものだったのだ。』ページ捲って『常に冷静であれと心掛け、一瞬前までは自信を持ってそう在れたと答えられたというのに──』」

「わかった!もういいから!」

「あってた?」

「合ってるわよ…………なんなの、ほんと」

「天才」

「はぁ……負けたわ。まさかこんな……なんなのその特技?」

「ところで、約束は覚えてる?」

「お、覚えてるけど……ちょっ、その悪い顔止めて!?」


その、瞬間。


なにか、大きな……

(おお)きな、途方も無く巨大な力の奔流を感じた。

これは、魔力だ。

無尽蔵と言えるおれの魔力総量を軽く上回る、どころか比べることさえ烏滸がましい程の。

空間がミシミシと悲鳴をあげる程の莫大な力。

これは世界の悲鳴だ。


場所は?

──遠い。


「……どうしたの?」

「なんでもない……あの約束については、一旦保留で」



異変を感じ取ったのは彼だけではない。


優れた魔力感知能力を持つ者……聖女、宮廷魔導師長、騎士団長やSランク冒険者の1部、魔族の王とその側近、霊峰に棲む竜王や聖獣、神獣の類など、大陸全土の強者達は、手を止め一斉に空を見上げた。

異変の元を探らんと。


同日、同刻。

遥か南東の地で、王が言った。


「よくぞいらした。勇者様方」


目も眩む魔力の柱が、足元の王国最大の都市、王都レクシルさえ矮小と嘲笑うかのように天を貫いていた。



地に潜り星を貫き、世界の外殻をこじ開けて。


36の魂を、異界より引き入れた。





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