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進化論~レベル式進化説  作者: ツタンカーメン
1章 始まりの迷宮編
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4 アレン②

雲が太陽を覆い、稲妻が光り、天地を逆さにした様な雨が降った日。

産まれてこの方類を見ない災害を、迷信深い老人達は、それを神の怒りだと考えた。生贄の文化は無かったが、酒や肉を捧げて神に祈った。



最初に気付いたのは、当然警備隊の者だった。


それらは雨に紛れて村に近づき、柵を壊し、警備兵を襲った。


気付いた時にはもう遅かった。


『....ぁえ?』


グシャッ


低い音が、真昼の闇に溶けて消えた。



『....ん?』

『何かあったか、親父』


魔物図鑑は魔獣系、亜人系と進んで不死者(アンデッド)系へと進んだところだった。


『....ちょっと、な。見廻り行ってくるから、留守番頼んだぞ』

『ん?ああ。分かった』


非番のはずだと思ったが、何時になく真剣な親父の顔に、疑問を呑み込む。ロングソードを手に家を出る親父を見送った。地面はぬかるんで歩く度に少し足が沈んでいた。



彼はラルゴ村の警備隊長、名はガントといった。先程感じた殺気...魔物か、はたまた盗賊か。もしソレが村を襲おうとする様なら倒そう、というくらいの気持ちだった。


外敵から住処を護る強者が居ないからこそ村は小さく、また小さいからこそ人が集まらず、住処を護る事が出来ない。

しかしながら、規模は小さいが数が多い"村"は旅人の休憩地や騎士や冒険者等の任務や依頼の遂行の為の拠点となりうる為、国としても定期的に周辺地域の魔物の駆除依頼を出している。

故に、頑丈目の柵と、その間からの狙撃で事足りる。


しかし、何事にも例外は存在する訳で――――


『....ッ!!なんでだ!?ここはっ!』


同種の殺気と気配、それに微かに悲鳴を聞いた気がして、殺気の元へ向かうと、すでに事切れた部下と、それを喰らう魔物が居た。


『まだ──────柵の中じゃねぇかよ!』


有り得なくはないと、頭のどこかで感じていた。

この雨だ。見逃したとして、誰が責められようか。

(早く、知らせなければ…)

村に入った魔物がコイツだけじゃなかった場合....村人が危険だ。


基本的に、この村の防衛戦略は柵の内側から矢を射掛けるだけであった。

滞在中の冒険者は居らず、その殆どが戦うことを拒否した非戦闘員で構成される村の人員のみで撃退するほか無くなった。

だから、少し無茶をしてしまったのかもしれない。





親父が出て少しした頃、少し遠い悲鳴を聞いて、俺も家を出た。

(悲鳴の元は.....あっちか?)

村の中で、何かあれば警備隊が鐘をうって知らせているはずだという思い込みが、油断につながった。


『...は?』


それは、本来居るはずのないモノだった。

悲鳴の元と思わしき家を覗くと、2匹のレッサーウルフを前に1人の村娘が、震えながら後ずさっているところだった。

ああ、この子は、確か警備隊のエリックさんの娘か。少し離れた所に奥さんが倒れていた。血塗れで、生きているかはわからない。


『おいっ!』


叫びながら、咄嗟に近くにあった瓶を投げた。

村の中だからと油断して、武器を置いてきた。魔法を使えば倒壊の危険性がある。威力調節が苦手だから。

レッサーウルフ2体なら何とかなるとふんで、素手で向かう。

瓶が当たった方が僅かに遅れて、飛びかかってくる。一匹目の突進と噛みつきはいなしてその勢いのまま家の外に。ドアを閉め、取り敢えず1対1の状況を作る。


『ッッふん!!!』


遅れてやってくる二体目の攻撃に合わせて首の横に手を添え、全力で壁にたたきつける。地面に落ちたところで頭を踏み砕いた。


『ふーーッッ!!はァ…君!大丈夫か?』

『は、はい。ありがとうございます...でも、その』


女の子の方は大丈夫そうだ。問題は奥さんだ。

左胸に手を当て、鼓動を確認する。手から伝わる柔らかさが少し恥ずかしかったけれども。

医学や癒術といえるほどのものでは無いが、傷の応急処置くらいは出来る。


『よし、血は…まだ巡ってるな。君!薬はあるか?無ければ薬草でもいい!』

『くっ、薬は無いです....昨日おばあちゃんに頂いた薬草はあります。...けど、種類が、分かりません』

『見せて!何処にある?』

『は、はい!すぐ持ってきます!』


噛まれたのは首1ヶ所、腹部に2ヶ所、右足に1ヶ所か。腹と手足はたいした問題じゃ無いが…...首のは不味い。結構深い傷で、今も血の勢いが衰えない。あてがった布が見る見るうちに赤に染まる。


『あのっ!持ってきました!』

『そこ置いて!次は水持ってきて!』


女の子が大量の薬草を入れた籠を持って帰ってきた。

良かった。血止めとヒポラノ草もそれなりにある。毒の心配は無いから、ヒポラノ草でHPを回復しながら血を止めるまで耐えれば何とかなる。HPの回復にはヒポラノ草を食べさせる必要があるが、奥さんの意識は無い。どうしたものか。女の子は完全に冷静さを欠いており、使い物にならなさそうだし、仕方ないか。

掌程もある血止めの薬草、ドクダミンAを噛み潰し、傷口に押し当てる。もう1枚で上から覆って更にタオルを巻いて固定する。更にヒポラノ草を噛み潰し、口に含んだ水と共に口移しで強引に流し込む。

血は数分で止まった。


まだ魔物が残っている可能性が高く、闘える人も少ないので、少しでも助けになるなら行かないと。けが人も居るかもしれない。

奥さんも危険な状態は脱したので、ドクダミンAとヒポラノ草を指して


『残りの浅い傷は放置でも半日は持つとおもうけど、傷口から病気が入ってるかもしれないからこの葉っぱをすり潰して水で溶いて、飲ませるか傷口にかけておいて。ポーションじゃないけど多少の効果はある。体力が消耗してきたようだったらこっちの葉っぱを。あと、危険が去るまで鍵が掛かる部屋で隠れとくんだよ』


と伝えて後の治療を丸投げする。嫌な予感が当たらなければいいけど。


レッサーウルフ 体長120~150センチ。 大陸中に広く分布する。 群をなし、人を襲う。その数は最大100に達することも有るという。


"群れを為し"

"100に達する事も"


『カーンカーンカーンカーンカーンカーンカーンカーンカーンカーンカーン!!!!!』


村中に、緊急事態を報せる半鐘の音が鳴り響いた。





『クソッッ!!厄介な....』


ぬかるんだ地面に足を取られ、普段の様に戦うことが出来ない。加えて魔法適性が火であるガントにとって、この雨は最悪のコンディションと言っていいだろう。対するは、ぬかるんだ地面でさえ俊敏性を失うことの無いジャイアントグリズリー。


グリズリー系の攻撃手段は、平手打ちや突進、噛みつき、魔法攻撃など多岐に渡るが────


体勢を崩しかけた状態で、繰り出される爪撃を必死に躱す。


──最も多用されるのが、平手打ち及び爪撃である。


無造作とも言えるその一撃は、しかし魔法を封じられ、機動力を損なった彼にとって十分に致命傷を負う似たる攻撃だった。






半鐘の音で、漸く気付いた者もいるようだ。慌ただしい雰囲気がつたわってくる。

そこここで警備隊所属の者だけでなく、家族を守る為に、村人として生きることを選び、戦うことを拒否した筈の男達が闘っている。

そこで、違和感に気付いた。親父が居ない。親父の強さなら、村中を駆け回って狼退治くらい容易いはずだが。

まさか、上位種か?


だとしたら…!


家に戻り、武器をひっつかむ。

確かこっちに行ったはず。親父は、殺気か何かを感じて見回りに行った。

親父くらいの手練なら、敵がどっちに居るのかくらい手に取るようにわかるらしい。距離については知らないが。ならば、真っ直ぐ向かったはずだ。


....魔法適性は、火だった。

身体能力も剣も、何もかもを火魔法で強化する剣術こそが、彼の真骨頂。この雨では………

足でまといになるかもしれないが、探しに行くことにした。

親父は、直ぐに見つかった。


『エアーカッター!』

『グルおァァああぁ!?』


アレンが放った魔法は、狙いを少し外して、グリズリーの脇腹を抉った。

ほんの一瞬、グリズリーは俺に意識を向け、

その隙にガントが右腕を落とした。


『チッ...!首を落とそうとしたんだが』


親父の魔法やスキルは、水に弱い。

極端に弱い。火魔法で攻撃力、防御力、俊敏性を大幅に底上げするのがガントの戦法だった。


いつも、そうやって戦ってきた。

何かを守る為に、では無い。強くなり、名を売り、金を得るためだった。

戦う才能は大して高くなかったが、大成したとは言えないまでも10年以上続けてきた魔物退治には自信があった。

金は十分に溜まり、平均より少し遅れたが、妻を持ち、子を授かった。

辺境でのびのびと暮らしたいという妻の願いで、田舎の村に家を持った。ガント自身も、不満はなかった。

家族の暮らす場所を守る為に警備隊に入った。いつの間にか隊長になっていた。

村の周辺の魔物は弱かった。強い魔物は森から出てくることは少なく、弱いものなら多少群れても、ガントが不覚をとるはずも無かった。

鍛錬は怠らなかったが、カンは錆び付いていただろう。



雨の日だった。狂ったような大雨だった。



何かを守るなら、どんな状況でも────最悪のコンディションでも、戦う必要がある。


魔物を狩ることを目的としていた冒険者時代、当然ながらガントは勝てる相手のみを選んで狩ってきた。

有利な条件をつくり、相手に不利な状況を作って。


だから、それは初めての経験だった。


『親父!!!』


何時もの戦いとは違い、身を守る炎も、敵を焼く焔も掻き消えて。

鉤爪が、腹を貫いた。

最期の力を注いだ一撃は、首筋から脇腹へと抜け、残る左腕を切り飛ばした。








『……は?』


外界の光が網膜上に像を結び、視神経が大脳皮質の視覚中枢へその刺激をありのままに伝えたが、アレンはそれを受け入れられずにいた。



今日よ親父の速さでは、全力でこちらに向かってくるグリズリーに追いつけなかったはずだった。

何とか抑えていたが、アイツが逃げに徹すれば追いつけない。俺は追いつけるが、俺では倒せない。

魔法での援護も、動き回る奴に正確に当てる腕はない。

だから、こうするのが正解だったはずだった。

助けに入って、近距離同士で連携する。


本当は、それが間違いだったのかもしれない。


助けなどなくても倒せたかもしれない。

それとも、素直に応援を呼ぶべきだったのかもしれない。


動けないほどヘトヘトになった時、グリズリーの振りかぶった左腕を見て、避けきれないと思った。


((俺よりずっと長い間こいつと戦ってたはずなのに、やっぱり親父は凄.....))





割りこんできた高密度な多量元素の塊は、保有するレベルの高さを余すことなく発揮し、十全に盾の役割を果たした。



が。


それは、到底受け入れられる光景ではなかった。

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