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進化論~レベル式進化説  作者: ツタンカーメン
3章 迷宮都市
38/65

38 朝。模擬戦

「ふぁ〜~ぁあ」


過去最高の目覚めだ。トイレ、風呂、洗面所が融合したバスルームで顔を洗い、用を足したら昨日風呂に入っていないことを思い出したので、魔石に魔力を込めで水を張る。

魔石の許容量をオーバーしないよう、ゆっくり、丁寧に。


(ユニットバスなのに木製の風呂桶か……違和感……)


「ああぁぁぁ〜~」


熱めのお湯も木の匂いも何もかもが最高だ。

3年?4年?正確には覚えていないが、数年ぶりの風呂だ。

ユニットバスだから、俺の知ってる日本式の風呂とは少し違うが、風呂は風呂だ。

石鹸風呂になる前に、もう少しお湯に浸かっていよう。



ゴブリンに貰った石鹸の塊とシャンプーの瓶を出し、まず頭を洗う。

シャワーで洗い流し、湯に浸かりながら石鹸で体を洗う。

栓を抜いて水を流しながら、石鹸水になったお湯の中で体を擦り、最後にシャワーで洗い流す。


(あ、この後どうせ素振りとかするから……)


熟睡し過ぎた。体はいつもの時間に起きたのに、頭がぼんやりする。

過去最高の目覚めとは。


(まぁいいか……)


5時半。ご飯は6時半なので、それまで素振りやかランニングでもしてこよう。

この宿には広めの庭があったはず。走るには狭いが、素振りには丁度いいだろう。


他に客もいないから、宿を取ったと言うより家を借りたような気分だ。

それでも『宿に泊まっている』という意識はあるので、裸で移動したりといった大胆なプレイはしない。

宿の主人もいるしな。



「ふっ……ふっ……!」

「ん?」


先客がいる。


「おっさん、素振り?」

「おお。レイジだったか。おれは冒険者でも騎士でもないが、刀の腕には自信がある。お前も素振りだろう?一緒にやるか?」

「じゃ、お言葉に甘えて」


集中……


「……ふっ!」

「ほう」

「ふっ……ふっ……いや、なんだよ」

「レイジ………俺と立ち合わないか?」

「え?いいけど……いきなりだな」

「ありがとう。受けてくれると思ったよ……と、その前にひとついいか?お前と俺では筋力が違いすぎる。だからハンデとしてコレを付けてくれ。魔道具だ。筋力が落ちる。外そうと思えばいつでも外せるし、外しさえすれば瞬時に筋力低下の状態異常は消える」

「なるほど……」

「正直驚いたぜ。鑑定しなくても分かる。ステータスが離れすぎてるんだ……一体どんな人生を送ればそんなことになるのやら」


渡された腕輪に鑑定をかけたが、問題なさそうだったので付けることにした。

というかこのオッサン、しれっと出したがアイテムボックス系のスキルを持ってやがるな。

鑑定スキルも持っているのかもしれない。


「武器は?本身でやるのか?」

「うーん……寸止めは動きが変わるからな。木刀でやろう。買ってくるぜ」

「一応自作の木刀があるけど」

「ホントか!見せてくれ」

「ほいよ」

「おう……お。お?木刀の重さじゃねぇな……百年木の幼木!?よく加工できたなお前」


やっぱり鑑定を持っていたか。


「おう、なんか結構硬かったぜ。おっさん、鑑定スキル持ってんのか」

「まあな。別に隠してた訳じゃないが……まあいい、得物はこれでいいだろう。」

「勝敗は?」

「どちらかが負けを認めるか気絶するまで」

「……いいね」

「この金貨が地面に落ちたら開始だ……いいか?」

「おーけー」

「よし」


親指で弾かれた金貨は2人のちょうど真ん中に落下。


チャリ…………


日本円にして約10万円相当の硬貨だ。後で拾っておこう。


体を落として……


「……ッ!」


目の前に、刀が迫っていた。


「お、避けれたか」


なんだ、今のは……

速すぎる。


「今度はもっと速ェぞ?」


ニタリと笑う、闇眼の凄絶。


(人格変わるタイプか……)

「死ねぇッ!」

(死ね!?)


殺意を持って生命に届く攻撃を放ったなら殺意でもって死を返す。

殺そうとしたんだ。殺されて当然だろ?


(……いや、何言ってんだ。こんなん本気の『死ね』じゃないだろ……でも、言葉には、責任を……ッと!)


そもそも防御で手一杯な訳だが。

戦闘狂(バトルジャンキー)はこっちも同じか。


「お前が死ね!!」

「クハハハハハッ!!強がった所で……勝ちは、見えねぇぜ!?」

「ぁああぁー…………いいね。イイねェ!活きが良くてェ……殺しがいがあるぜェ!」


互いに譲らず、刀をぶつけ合う。

一瞬で勝負が着き、片方は死に片方が生きるはずの斬り合いがここまで長続きするのは、さすがファンタジー世界と言った所か。

筋肉の強さも、反応の速度も、戦国時代の剣客剣豪を圧倒し、刀の技術も引けを取らない。

筋力はほぼ同じ、刀の技術は天と地ほどの差は有ろうが、反応速度でヒュウガを大きく上回る。

勝負がつかない。


「そうだ、昨日渡しそびれてたけど、お前の奥さんの尻尾の骨……ラァァッ!」

「甘いわァ!その程度の攻撃ならかすり傷ひとつ負わずに尻尾を奪うのも容易、っていうかどこ狙ってるか丸わかりだぜェ!」

「くっそ、邪魔くせぇ!なにが筋力低下だ!ンなもん……」

「うわっ、父さんと、レイジさん……何やってんの?」

「殺し合いィ!」

「うぉ、カグヤさん!?なんでこぐほぉ!?」

「ふぅ……俺の勝ちだな」


体感で10分かそこら。突然の乱入者に驚いたおれは、驚かなかったヒュウガにいとも簡単に倒された。


「今日は起きるの早いな。どうした?」

「外から『ヒャッハー!』って聞こえてくるから……」

「それ多分こいつだわ。な、レイジ?」

「いや、お前だろ」

「二人共よ」

「……」

「で、なんでここに?」

「言ってなかったっけ?ここ、私の家よ。そっちのが父のヒュウガ」


なんてことだ……半ば専属受付嬢と化している猫耳美人にあんな醜態を晒すなんて。

もう今日以降どんな顔してギルド行けばいいかわからん。そもそも泊まってる宿の娘だからギルドに行かなくても顔を合わせることになる。


「ウチに宿取ったって聞いたから昨日のうちに挨拶しようと思ってたけど、もう寝てたし」

「それは済まなかった」

「手前、うちのカグヤとどういう関係だこらァ!」

「依頼を受理し受理される関係」

「受付嬢と冒険者」

「そしてうちに泊らない?と誘われた」

「なにィ!?」

「客として、宿屋にね」

「まあ、言うなればそうだね」

「そうか……」

「ねぇ、もうご飯にしない?皆起きてるんだし」

「そうだな。レイジもいいか?」

「ああ。タダで食わせてくれるんだっけ?」

「あーー、言ったな、そんなこと」


部屋に戻り、シャワーで汗を流して食卓につく。

流石に料理が出来ているはずもなく、暇を持て余す。


(ん……?ヒュウガのオッサンが作ってるわけじゃないのか……と、言うことはカグヤさんの手作り料理か!?)

「いや、いつもは俺が作ってんだぞ?一応言っとくが……」

「……暇だなぁ」

(やっぱり、娯楽が少ないな……過去の転生者は何をしてたんだ……下水道だとかトイレだとかみたいな手間も金もかかる上に技術が必要な改革よりもボードゲーム……オセロ、将棋、囲碁、チェスとかを流行らそうとは思わなかったのか……)

「おい、聞いてるのか」

「なぁ……なんで宿屋なんかやってんだ?」


そもそもこれを宿と言っていいのか?

部屋はあるが客はいない。部屋はあると言っても5部屋程度では宿とは言えないだろう。

そのくせ全ての部屋に鍵とトイレと風呂が着いている。

客用の部屋は2階で、1階が家族の部屋と食事部屋。


「うん?なんでってのは……?」

「人通りの多い道から外れたこんな場所で。宿屋って言う割には部屋が少ないし、客を呼び込もうとしてないだろ?なんで宿屋やってんだ?」

「シュリの夢だったんだ。2人で宿屋でもやってのんびり暮らす……ってな」

「だから、なぜ宿屋……」

「俺も最初はそう思ってなぁ。冒険者やって金貯めて、そんで家族でのんびり暮らせばいいって言ったんだ」

「ふーん……」

「それでも宿屋がいいって言って譲らねぇ。それで、この家建てて……でも、客はいらなかった。赤の他人が住んでて、どんな奴か分からないってのは結構キツい。人数が多いとそれだけやらなきゃいかんことも増える。だから、客は友達ばっかりだ。金はとるがな」

「ばっかりって、2人だけだろう」

「そうだな、お前で三人目だが……まあとにかく、大衆に向けた宿屋じゃなくて、時々、親しい人が泊まって行くような宿屋になったわけ」

「それだとなんでおれがココ勧められたかわかんないな」

「そーなんだよな。昨日あったばっかりなんだろ?」

「そうなんだよなぁ……」


(まさか一目惚れでもしたのか……まあ、顔はかなり良いからな)

(まさか一目惚れでもしたのか……まあ、顔はかなり良いが……娘を狙うなら先に俺を倒して見せろ……)


「お待たせー……なに、この空気」

「おお、美味しそう……!」

「当たり前だ!なんだって、俺の娘だからな……へへっ」

「「いただきまーす」」

「おいおい、そこはえへへってはにかむか、そんなんじゃないから!ってツンデレることろだろ」

「この魚すっごい美味しい!」

「ふふ、ありがとう」

「あれ、なんかいい雰囲気……?ダメだ!止めなければ!」

「心が暖まるよ……これぞ家庭の味って感じがするのは……皆で食卓を囲んでるからかな?」

「そう?一生懸命作った甲斐があったわ。やっぱり1人の食事は寂しいわよね」


一人飯には慣れてるが、仲のいい友達と食べる方が楽しいに決まっている。

いい匂いがする仲のいいゴブリンでも可。


「レイジィィィィイ!!」

「なに?おっさん」

「え、やっぱり俺と喋るときぶっきらぼうじゃない?カグヤと喋るときに比べて」

「それは当ぜ、」

「じゃなくて!なぁ……俺の弟子にならないか?剣術を教えてやる」

「……マジで?」

「ああ」

「……よろしくお願いします」

「うむ。師匠と呼ぶがいい」


ふんぞり返ってそんなことを吐かしやがった。

ついに頭がおかしくなったのだろうか。


「カグヤさーん、コイツ、毎月毎月1人でこっそり高級料理食べに行ってるんだって」

「おい!」

「高級料理?」

「レイジィィィィイ!お前の刀は、対魔物の癖が染み付いて……レイジィィィィイ!」

「そそ。1食で大金貨が飛んでいくような」

「大金貨……?それって、幻の……!」

「そうだ!1食の代金換、えっと……レイジィィィィイ!」

「オッサンうるさい。幻かは知らんが……元皇室専属料理人の筆頭だったコックの店だな」

「やっぱり幻の美食屋!?1人でこっそり行ってたなんて……最低!」

「違うんだ……誤解なんだ……違うんだ……」

「カグヤはんは、ほうははんひはら……今日は、何時から仕事?」

「今日はシフト入れてないからフリーダム」


シフト……?


「へぇぇ。じゃあおれも今日は寝て過ごすか」

「レイジ……今日は、基礎鍛錬の素振り100万回終わらせるまで……」

「なに、お父さんまだ居たの?さっさと仕事行きなよ。高級料理店に通う為のお金でも稼いできたら?」

「すごい根に持つね。食べ物の恨みはなんとやらってやつか……ならさ、今日行く?」

「今日?予約とかしなくてもいいの?それに、そんなお金持ってないし……」

「店主のオカマは店の一角に棲んでるし、そもそも客が居ないから……。このオッサンも持ってるけど会員証みたいなのが要るし。行けば食べれると思うよ。お金はおれが払うし、その事で何やかんや言うつもりは無いよ」

「ホントに!?いいの!?ありがとう!!」

「お、おう……空いてなくてもおれのせいじゃないからな……?」

「ダメだッ!カグヤァ、昨日あったばかりの男としょ、しょ、食事なんて……!」

「あ、言われてみればそうだね……」

「大丈夫よ?私、[危機察知]と[危険回避]持ってるし。生まれた時から」

「じゃあ行く?」

「ヤメロォォ……」

「うん!よろしくお願いします!」


おれのコミュ力がとどまる所を知らない……。

まさか女の人を食事に誘える日が来るとは。たとえそれが、料理に釣られただけだとしても。



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